呼びかけ人
青山 貞一 (環境総合研究所長、武蔵工大大学院教授)
池田こみち (環境総合研究所副所長、関東学院大学経済学部非常勤講師)
池田香代子 (翻訳家)
石坂 浩一 (立教大学講師)
石田 玲子 (戦争への道を許さない女たちの会)
今村 和宏 (一橋大学大学院経済学研究科助教授)
上村 英明 (恵泉女学園大学助教授、市民外交センター代表)
大河内秀人 (見樹院住職、パレスチ子どものキャンペーン常務理事)
太田 修 (仏教大学教員)
岡本 厚 (岩波「世界」編集長)
甲斐田万智子(国際子ども権利センター代表、立教大学教員)
姜 尚中 (大学教員)
きくちゆみ (グローバルピースキャンぺーン)
喜納 昌吉 (音楽家)
木村 朗 (鹿児島大学教員)
銀林美恵子 (在韓被爆者問題市民会議運営委員)
熊谷伸一郎 (月刊『自然と人間』編集長)
小林 一朗 (サイエンスライター)
佐久間智子 (市民フォーラム2001 元事務局長)
櫻井 勝延 (福島県原町市議会議員)
寺西 俊一 (一橋大学大学院経済学研究科教授)
鷹取 敦 (環境総合研究所主任研究員、法政大学工学部非常勤講師)
寺尾 光身 (名古屋工業大学元教員)
田中 優 (日本国際ボランティアセンター理事)
戸田 清 (長崎大学環境科学部助教授)
槻宅 聡 (能楽師)
藤澤 房俊 (東京経済大学教授、NGOラブ・アンド・ピース)
星川 淳 (作家・翻訳家)
本多 静芳 (武蔵野大学教員)
宮内 勝典 (作家・早稲田大学客員教授)
横川 芳江 (地球の木) |
【私たちは、隣国の人々の死を望まない】
国連憲章、国際法に明白に違反した米英のイラク侵攻は、その圧倒的な軍事力によって、サダム・フセイン政権を崩壊させました。しかし、米英の「勝利」は、決してこの侵攻に正当性を与えるものではありません。この侵攻によって、イラク兵1万人以上、民間人4000人以上が死亡し、おびただしい負傷者が出ているといわれます。あまりにも不必要で、無残な死といわざるをえません。
ブッシュ政権は、イラクに引き続き、イランや朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)を次の標的に据えています。
私たちは、これ以上、アメリカの無法行為によって、悲劇が世界に拡大するのを許すわけにはいきません。そして隣国であるDPRKに対して、無残な死と破壊がもたらされることに、強く反対します。イラクと同様、真っ先に殺され、傷つくのは、子どもたち、女性たち、老人たちをはじめとする社会的弱者です。私たちは、彼ら、彼女らの死を絶対に望みません。
私たちは紛争を未然に防ぐことを第一の目的とし、DPRKを追い詰めることのない周辺環境の構築を隣接国(韓・日・中・ロ)が協調してすすめ、本質的な問題解決をめざし、取り返しのつかない悲劇を生まないよう、以下の提言をするものです。
【最終的に、どのような未来を選択するのかはその国の国民でなければならない】
イラクは独裁体制でした。DPRKも一党支配の独裁国家です。思想・表現の自由、人権の尊重、民主主義などは著しく制限されています。経済も崩壊状態にあり、いわば恐怖と欠乏が社会を覆っています。しかしその体制は周辺諸国とも関連しながら歴史的に形成されたものであり、それを変革するのはその国の国民です。外からの武力攻撃ではありません。長い目でみれば、国民の支持を失った政権は、必ず倒れるというのが歴史の教えるところです。
そして、これまでDPRKのこうした「体制」を維持してきたのは冷戦の対立構造であり、互いに対立する周辺諸国の関与だったともいえます。私たちは日本、中国、ロシアの周辺諸国および韓国が、この対立と分断の構造を和らげるようにし、さらには多国間協定などを結んで経済的な共同体を形成し、その中にDPRKを導き入れていくことを提言します。
【DPRKの開放への変化を歓迎し、支援する】
長く一党支配体制と計画経済体制を守ってきたDPRKも、2000年の南北首脳会談や2002年の日朝首脳会談などに見られる通り、ゆっくりとではあれ、外に対して開き、自らを変えようとしてきています。私たちはこれらの動きを歓迎します。そして国際社会はこの変化を積極的に支援すべきだと思います。注意深くみるなら、DPRKは孤立からの脱出を望み、対話と交渉を求め、平和と繁栄を願っています。私たちは、北朝鮮に住む人々とも良好な関係を結び、ともに東アジアの未来をつくっていきたいと思います。ブッシュ政権の核ドクトリンが、DPRKの開放への変化を逆転させてしまいました。DPRKを追いつめ、変化の芽を摘み、再び国を閉ざさせることは、危険で愚かなことです。
【武力行使は韓国の緊張緩和政策と統一への努力を破壊する】
朝鮮戦争(1950年〜1953年)を戦い、長く厳しい対立をしてきた韓国は、いまDPRKを支援し、将来的に統一していく同胞として、良好な関係を築こうとしています。冷戦の最後の氷塊を粘り強く溶かしていこうとする民族の努力を、私たちは支持します。朝鮮半島は将来、必ず統一されるでしょう。段階的で平和的な統一こそが望まれます。米国の勝手な思い込みによる武力攻撃や武力による威嚇は、この努力を破壊します。
【DPRKが攻撃に出るときは、自爆のとき】
DPRKは人口2300万、一人あたりGDPは900ドルという、飢餓に苦しむ小さな貧しい国です。しかし日本の植民地支配の経験を経て、決して外勢に屈しない姿勢と強いプライドを持っています。いま、日本で懸念されているような、DPRKによる攻撃という事態が起こるとすれば、それは「自爆」以外に考えられません。強力な破壊力と情報力をもった米軍にかなうとは考えないでしょう。徹底して追いつめられれば、DPRKは滅亡を覚悟して韓国や日本に攻撃を行いかねません。
朝鮮戦争時と異なり、今度戦争が起きれば、日本が無傷であるはずがありません。だからこそ、日本は韓国と並んで、決して「自爆」を引き起こさせないことが重要なのです。日本政府はあらゆる可能性を探り、対話し、米国を説得し、北を追いつめない努力をすべきです。
【DPRKの核開発に反対する】
4月23日、北京で開催された米中朝3カ国会談において、DPRKは核兵器を保有していることを認めたといわれています。同時に、体制の存続が保証されることを条件にして、検証可能な核の放棄に応じるとの提案もなされた、とも報道されています。
米国の判断は、核実験も経ず、運搬手段も満足に持っていない北の核兵器の保有は、米国にとって大きな脅威になりえない、ということでしょう。仮にいくつかの核爆弾があったとしても、米国にはその数千倍もの核兵器があります。 しかし、日本、韓国、中国を含んだ東アジア諸国にとっては、DPRKの核保有は大きな脅威となります。核爆発や事故の危険とつねに隣り合わせにいることになるからです。さらに北の核保有は、日本を含む東アジアへの核の拡散をもたらしかねません。
私たちはDPRKの核開発と核保有に強く反対します。DPRKは、南北非核化宣言(1992年)の精神に戻り、日朝平壌宣言(2002年)に沿って、瀬戸際緊張政策を止め、核開発を放棄すべきです。同時に、米国はDPRKを先制攻撃戦略や核によって威嚇することを止め、DPRKの恐怖を和らげる措置をとり、対話を行うべきです。
私たちは、日韓中ロの周辺諸国が、対立する米朝の間に入り、北の核開発の放棄と米国の武力行使の放棄をともに働きかけることを求めます。
長期的な代替案として私たちが提案するのは、東アジア全体の非核地帯化構想です。南米、太平洋、アフリカ、東南アジアに続いて、この地域でも非核のための多国間条約をつくる努力を始めなければなりません。
【日本人拉致問題は交渉を通じて解決を】
2002年の日朝首脳会談で金正日国防委員長が事実を認めて謝罪し、その後5人の被害者が帰国した「日本人拉致事件」は、明らかにDPRKの国家犯罪です。真相の究明、責任者の処罰、補償、再犯防止の保証などが求められてしかるべきです。しかし、同時にこの問題が、DPRKに対する米国の武力行使を正当化する根拠にされてはなりません。なぜなら、武力行使は、拉致被害者の悲劇を、何千、何万倍も拡大することになるからです。日本政府は国交正常化交渉を再開し、対話の基盤の上に司法共助協定などを締結して、この事件の解決を図るべきです。その間、引き裂かれた家族の自由な往来、通信の自由を、両国政府は保証しなければなりません。
また日本人である私たちは、「日本人拉致事件」を問題にするとき、常に自らの過去を問い直す姿勢が必要です。植民地とした朝鮮から、最低70万人の朝鮮人を強制的に日本に連行し、あるいは慰安婦や軍属などとして戦場に連れて行きました。この問題について、日本政府は半世紀以上が経つにもかかわらず、満足な調査もせず、謝罪も補償も行っていません。拉致され、家族と引き裂かれた被害者の苦しみ、悲しみを思うなら、自らの過去をも振り返り、悔い、反省するべきでしょう。
【日本は米国の攻撃に賛成してはならない、協力してはならない】
日本政府は、誤った米国のイラク攻撃を「支持」するという誤った決断を行いました。そしてその理由の一つに、DPRKからの脅威を挙げるという、第二の過ちを犯しました。これは、もし米国がDPRKを攻撃するときは、日本政府はこれも支持するというメッセージに他なりません。そして東アジアが戦場になった場合、日本の協力は「イージス艦」の派遣などですまないことは、明白です。
日本列島は、米軍を支援する兵站の拠点となり、輸送、医療、建設などを行う不沈空母の役割を担うことになります。非常事態が告知され、軍事優先となり、報道は規制され、国民は協力を強制されるでしょう。まさにいま国会に上程されている「武力攻撃事態法」などの「有事法制」が作り出そうとする軍事体制がこれです。朝鮮半島における戦争によって、戦後日本の憲法体制は完全に破壊されるか、立ち直れないほどの打撃を受けるでしょう。
【私たちは、このような戦争を準備する有事法制に強く反対します】
朝鮮における米軍による北朝鮮攻撃への協力は、日本と韓国も含んだ朝鮮半島全体の人びととの和解を、さらに遠ざけることになります。1910年〜1945年の日本の植民地支配は、大きな被害と屈辱を朝鮮半島の人々に与えました。その傷はまだ癒えていません。ようやくここ10年、日本政府も植民地支配について誤りを認め、謝罪を口にするようになりました。2002年のワールドカップ共催などで、特に韓国民との相互理解は大きく進んだといえます。
DPRKの人々との和解は、まだ端緒についたばかりです。小泉首相の植民地支配謝罪の表明を含む2002年の日朝首脳会談がその第一歩でした。この可能性の芽を、摘んではなりません。
日本が再び朝鮮半島における殺戮と破壊に手を貸すことになれば、韓国を含む朝鮮半島の人々の日本に対する怒り、怨み、不信は計り知れないものになるでしょう。
私たちは、日本政府が米国のDPRK攻撃に賛成、支持、協力することに反対します。
<政策提言のまとめ>
@米国のDPRKへの武力行使に反対する、日本の武力行使への協力に反対する
ADPRKの核開発、核保有に反対する
B日本を含む周辺諸国は協調して、米朝の間に入り、紛争の予防、対話と緊張緩和の促進を。さらには多国間協定を結んで、北の開放政策支援を
C長期的には東アジアに非核地帯を
D日朝交渉の継続、ならびに日朝国交正常化の早期実現 |