【解説】  重金属の濃度分析について

環境総合研究所(東京都品川区)


1.重金属汚染の毒性

 産業廃棄物、一般廃棄物を問わず廃棄物を焼却することにより、さまざまな重金属類が土壌、大気、底質、水質中に排出されます。それらは、農作物、魚介類等を経由し最終的に人間の生体を汚染します。

 重金属には、表1に示すように、発ガン性、催奇形性、アレルギー性をもつものや環境ホルモン毒性(免疫毒性、生殖毒性、胎児毒性)をもつもの、さらに化学物質過敏症など、健康リスクをもたらす可能性があります。

表1 周期表からみた元素の生体に対する為害性
元素記号 原子番号 元素名 元素の生体に対する為害性(該当する項目に○を表示)
非特異的催腫瘍性 発癌性 発癌性の疑い 特殊化合物で発癌 その他刺激性 催奇形性 催奇形性の疑い アレルギー性 必須元素 放射性
Be 4 ベリリウム              
F 9 フッ素                   
Mg 12 マグネシウム                  
Al 13 アルミニウム              
Cl 17 塩素                  
Cr 24 クロム                
Mn 25 マンガン                
Fe 26                
Co 27 コバルト                
Ni 28 ニッケル              
Cu 29                
Zn 30 亜鉛                
As 33 ヒ素              
Se 34 セレン                
Cd 48 カドミウム                
Sn 50 スズ              
Sb 51 アンチモン                
Hg 80 水銀              
Pb 82                

2.重金属汚染の測定分析方法

 重金属の測定分析方法には大別して溶出分析と含有分析があります。

 日本の重金属分析では、従来、いわゆる溶出分析に対応した基準しかありません。しかも日本の溶出分析を定める環境庁告示では「試料液をpH5.6から6.3に調整し」とあります。これは、アメリカ(pH4)、オランダ(pH4及びpH7)、ドイツ(pH4)、スイス(pH4.0〜4.5)のように、酸性液による調整でないため、溶出率がきわめて低いことが専門家*から指摘されています。すなわち、アメリカ、オランダ、ドイツ、スイスの重金属の溶出分析に比べ、日本の環境庁告示の溶出分析では重金属類が検出されにくくなっています。

  * たとえばゴミ弁護士連合会の梶山正三氏(弁護士、理学博士)は以下のように述べています。

「日本の溶出分析は非常に問題があるということを私はどこでも言っている。日本の溶出分析は、要するに、土壌なり底質から重金属がどのように溶け出してくるのか、試料を乾かし、細かくし、それをpH(ペーハー)5.8〜6.3溶液のなかにいれ、それを6時間ふるわけです。通常は酸性でやらなくてはいけません。というのは、重金属はアルカリ性では溶け出ないからです。だから酸性で溶け出してくるかどうかが重要なのですがが、環境庁告示第13号、第46号ではpHが酸性でないため原理的に溶出しないのです。環境庁告示第46号は土壌環境基準で、第13号が廃棄物をそのままうめていいかどうか、有害性があるかどうかというのをみるときに使います。どちらも液pH(ペーハー)は5.8〜6.3です。それに対してTCLPはアメリカの方法、Total Availabilityはオランダの方法です。オランダではpH7と4で行い両方合わせ何もでなくなるまで分析するという、しつこい方法となっています。またスイスは、だいたい4で行っています。日本はだいたい6です。pHが2違うとだいたい100倍違います。それで、この上のグラフですが、だいたいpHペーハーが2違うと溶け出してくる濃度が100倍違います。そういうデータなんです。」
表2 溶出試験の比較
固液比 液pH pH調整 ろ過
環境庁告示第13号 10 5.8〜6.3 1μm
環境庁告示第46号 10 5.8〜6.3 0.45
TCLP(アメリカ) 20 4 酢酸 0.45
Total Availabitity(オランダ) 50 4及び7 硝酸 0.45
スイス 10 4.0〜4.5 炭酸ガス 0.45
ドイツ 8 4 硫酸 遠心分離

 一方、先進各国における重金属の分析は含有分析が主流となっています。

 その理由は、溶出の方法以外に、土壌、底質などサンプルの種類、性質により溶出濃度が著しく異なることがあるからです。 市街地土壌汚染分野の先進国では、土壌に含まれる重金属の分析結果をもとに、環境リスクや健康リスクを評価するガイドラインや基準が作成され利用されています。たとえばドイツでは連邦土壌保護法において含有濃度を対象とした重金属類の評価ガイドライン、予防ガイドラインが設定されています。表3は、ドイツの連邦土壌保護法の保護令に定める含有濃度の試験値、また表4は予防値です。また表5は、国際再開発土壌汚染検討委員会の土地利用毎の重金属の推奨値です。いずれも含有濃度を対象としたガイドラインです。        

表3  ドイツ連邦土壌保護令に定める試験値
(曝露経路:土壌→人体)
対象はすべて含有濃度 mg/kg
子供の遊び場 住宅地 公園・余暇施設 産業用地
ヒ素 25 50 125 140
200 400 1000 2000
カドミウム 10 20 50 60
シアン化合物 50 50 50 100
クロム 200 400 1000 1000
ニッケル 70 140 350 900
水銀 10 20 50 80
    (出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2

表4  ドイツ連邦土壌保護令に定める予防値
(mg/kg  乾量、細砂、王水溶解)
カドミウム クロム 水銀 ニッケル 亜鉛
地質白土 1.5 100 100 60 1 70 200
地質粘土 1 70 60 40 0.5 50 150
地質砂 0.4 40 30 20 0.1 15 60
自然的に、又は広域的な居住圏の影響でベース値が高い土壌の場合 当該有害物質を放置しておくことや、法規命令第8条第2項、2項で定める追加的な物質投入によって、土壌機能に負の効果がない限りにおいて対象外

表5 ICRCLの重金属類土地利用別推奨値(Recommendation Level)
()はICRCLのガイドライン値 単位:mg/kg
遊び場 庭園 運動場 公園 農地
砒素 20〜25 20〜40
(10)
35
(40)
40
(40)
40
カドミウム 2〜10 1〜2
(3)
2
(15)
4
(15)
2
クロム 50〜200 70〜100
(600)
150
(1000)
150
(1000)
200
50 50
(130)
100 200 50
水銀 0.5〜1.0 2
(1)
0.5
(20)
5
(20)
10
ニッケル 40〜70 70〜80
(70)
100 100 100
200 200〜300
(500)
200
(2000)
500
(2000)
500
亜鉛 300 300
(300)
300 1000 300
ICRCL:International Committee on the Redevelopment
Contaminated Land, UK body, which set guideline
values for contaminated land in 1987
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