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「23区廃プラ焼却と廃プラの今後」
講演とシンポジウムの概要

2010年3月6日14:00-17:30
豊島区生活産業プラザ(第1&第2研修室)


池田こみち・鷹取敦(環境総合研究所)責任編集

7 Mar. 2010


 2010年3月6日、東京二十三区清掃一部事務組合が実施した、廃プラ焼却に関する「実証確認」を検証するためのシンポジウムが開催された。ここにその概要を紹介したい。

会場の様子


■挨拶:佐藤禮子
司会武井和彦氏と佐藤禮子氏

 23区の廃プラ焼却への転換は所沢市にまで波及している。今日は環境への影響が中心だが、施設へのダメージとその経費への問題も重要だと考えており、次回は施設の問題を取り上げたい。実際に6施設で点検補修が頻発しており26億円の補修費が東京二十三区清掃一部事務組合(以下「一組」と表記)の議会で何の議論もなくすんなりの随意契約で支出することが了承されている。スラグにも問題がありJISも取れない品質で行き場もない。溶融施設も機能していない。これからは3Rでなくリサイクルにも問題はあるので2R(リデュース、リユース)が大切だと考える。23区民はこれを機会にいろいろな廃棄物政策をどんどん提案していく予定である。


■経過報告:青木泰

 23区で廃プラ焼却が始まり約1年少しが経過した。その影響がどういうものだったか今回の講演、シンポジウムで明らかにしたい。清掃一組は全て「基準内」で環境への影響は無いと発表している。またCO2排出量増加、練馬工場など複数の清掃工場での雨水排水のダイオキシン環境基準超え問題についても対象にされていない問題がある。サーマルリサイクル実証確認等検討委員会(以下「検討委員会」と表記)の委員長は一組の意見とほぼ同じ。一組と委員長で検討委員会の結論を今後まとめられる見込み。一組の一方的な結論だけにならないよう、私たちは今日の議論をもとに取りまとめ公表していきたいと考えている。


第一部

■実証確認の問題点(全体的な面から)
 池田こみち(環境総合研究所)

池田こみち

 7回の委員会のうち6回目の検討委員会に600ページの資料が配付された。環境総合研究所はこのデータを元に評価したい。
 実証確認は本来、イメージや期待ではなく科学的な方法で行うべき。第三者性はあるのか誰が行ったかも重要。3億4千万円の費用がかかっている調査の科学的な意義があるか。炉の状態、薬剤の使用、運転費用等のデータも合わせて評価すべきだがデータがまとめられていない。
 清掃一組が主催した検証委員会には、6人の区民委員の他、専門家委員が2名、区の委員、都の委員等が参加した。発言しているのは区民委員だけで区の委員、都の委員の発言はほとんど無く、委員会の体をなしていなかった。
 調査の方法は一組が勝手に決めて、検討の段階だけ区民参加のような形をつけても意味がない。私たちは、意見書を一組に出したが受け付けないと言われた。一組は解析・評価・検証を自らまとめその内容を都民や外部の専門家に問うという姿勢が必要だったのではないかと考える。
 試験をしている最中になし崩し的に本格実施に移っているのもおかしい。
 都内での主な発生源である大型焼却炉からの累積的、広域的、複合的な汚染を把握していかなければならない。大気からの有害化学物質の体内摂取の割合は小さいからといって呼吸する大気は選べないのでより慎重な対応が必要。


■実証確認の問題点(データ面から)
 鷹取敦(環境総合研究所)

鷹取敦

 実証確認に支出された税金の内訳、各委員の出席状況等、池田が指摘した点のデータについて具体的に指摘する。
 実証確認実施の時期、回数等に一貫性、計画性が無いことの指摘。実証確認期間中に本格実施が始まってしまっている。
 分析対象物質が分析対象項目(廃棄物、排ガス、灰、排水、大気等)によってまちまちで一貫性がなく関係把握が出来ない。
 廃プラが実施前とほとんど変わらない時点で調査が行われていることが無意味(税金の無駄使い)。また同一条件で1回ずつしかデータを取っていないのは無意味だが、一方で実際の工場で長期に「実験」されても困る。
 廃プラ混入率が約5%から20%に増加しており、それとともに不燃ゴミの混入率が数倍に増加し廃プラ以外の焼却不適物が増えている。
 焼却廃棄物中の燃焼性硫黄、揮発性塩素が増加している。
 廃可燃ゴミの種類別の金属類の濃度比較。廃プラ等と不燃物中の金属類が他の可燃ゴミと比較していずれも高い。
 排ガス、焼却灰、汚水処理汚泥、飛灰・飛灰処理汚泥中、溶融灰処理汚泥、スラグ中の汚染物質がいずれも廃プラ焼却に伴って増加傾向にあることが個々の工場の実施前・実施中のデータで分かった。
 一方、周辺環境大気は気象条件の影響が大きいので日単位で調査しても全く意味がない。データをみると背景濃度の全国的な変化の傾向、季節変動(冬季高濃度)が分かるだけ(ダイオキシン、浮遊粉じん中の鉛)。
 薬剤の使用量に増えているものが見られ、故障件数、故障による休炉も増えている。
 問題なしとの結論ありきで、「安全性」を確認するための科学的な方法ではない、計画性のない場当たり的な調査ではあるが、有害物質の増加等の傾向があることは明らかになった。


■廃プラスチック焼却の問題点
 村田徳治(循環資源研究所)

村田徳治氏

 一組は「サーマルリサイクル」などと言っているが、これがそもそも誤り。リサイクルであれば「リサイクル率」が示されるべきだがそれはない。誤った和製英語の典型。
 本来は「サーマルリカバリー」と呼ばれるべきものでドイツなどでは熱回収率が75%以上でなければならない。日本ではいくらで売れたなどの数値ばかりでまともな評価が行われていない。
 一組が定期的に(毎年ではないよう)作成している9工場の「環境報告書」を検討したところ、工場ごとに調査の項目、単位、用語がバラバラ。同じ一組が作ってあるのであれば本来統一されているべき。データを活用しているのであれば、これらがバラバラであるはずがない。
 データをみると工場によって単位ゴミ量あたりに換算した電力購入量がバラバラ(電気は東京電力しかからしか買えない。今は東京電力は火力発電なのでCO2が増える)。工場によって事情が違うものの原単位としてみれば異常なばらつき。薬剤使用量も同様ででたらめ。新江東工場が異常に多い。杜撰な運用の実態が分かる。キレート剤は葛飾工場しか報告していない。
 新江東工場では苛性ソーダが廃プラ焼却に伴って増加していると書いてあるが、どれくらい増えたか書いていない。廃プラに含まれる塩ビが増えると酸が増えるので苛性ソーダで中和する必要があるから使用量が増える。杉並工場だけが数字を示しており33%増加していることが分かる。
 廃プラを燃やすと塩ビ、臭素系難燃剤、プラの添加物から有害物質が出る他、レアメタルを失ってしまう問題もある。
 資源化の邪魔をする塩ビ。塩ビは他の樹脂でほとんど代替できる。
 各清掃工場が発表している環境報告書にはCO2の排出量もあるが、違う工場なのに一律の原単位から単純に計算したような数値が並んでいる一方、目黒工場は単位ゴミあたりの排出量が2桁(?)小さい異常に小さな数値を平気で示している。こうした状況ではいったい何をしているのか不信になる。サーマルリサイクル以前の問題だ。


第二部

■今後の廃プラ問題への対応
森口祐一(国立環境研究所循環型社会・廃棄物研究センター長)


森口祐一氏

 有害性の問題についてまだまだ伝えなければならない一方、行政も情報の伝え方が下手だと感じた。みなさんの疑問に答えられるような話をしたい。

 2001年に厚生省から環境省に廃棄物行政が移管された。
 私は1982年に国立公害研究所に入ったが、ごみをずっとやってきたわけではない。最初の頃は大気汚染関係の仕事、交通公害をやってきた。私が作った自動車排ガスのモデルを環境総合研究所でもそれを元にしたものを使っていただいている。行政官もやったし国際機関へも出ていたことがある。
 今日はエネルギー回収、温暖化対策と関係する部分についてお話ししたい。
 ごみの処理を市町村がやると決まったのは100年以上前。その歴史で受け継がれてきたものが現在の23区の問題にも端的に表れている。当初は衛生的な処理、伝染病対策だったが、現在はただ燃やすよりは何らかの形で利用しよう、リサイクルできるものはリサイクルしようとなっている。それよりも、なるべくゴミが出ないような生産の仕方、消費の仕方に入っていかなければならないのが現在の流れ。

 循環型社会形成推進基本法が2000年に出来て優先順位が定められた。リデュース、リユース、リサイクル、それが出来なければ燃やしてエネルギーリカバリー、残ったものは最終処分というのが基本的な順序。一方、循環型社会といいながら燃やすことが優先されているという指摘がある。旧厚生省の流れの廃棄物行政と旧環境庁の流れの循環型社会の流れがまだ十分に整合しておらず多少の矛盾がある。 焼却には有害物質の問題がある一方、処分場の立地の問題もある。ごみを処理する段階だけでなく生産、消費の段階でも環境への影響がある。
 廃プラは燃やすか埋め立てるかの両方とも問題がある。一方でリサイクルは却って無駄との指摘もある。プラを代替する材料、大幅な使用量の削減も難しい。焼却、埋め立て、リサイクル、プラの代替・使用量削減の間でのバランスを取るしかない。

 温暖化ガスの寄与割合をみると廃棄物は2%ぐらい。多いのは工場や発電所。2〜3%だから問題ないとは言わないが、相場観としてはこのくらいであると思っていただきたい。ごみ起源のうち4分の3くらいが廃プラ系の焼却起源。
 都市別でみると23区より大阪市の方が多い。これは23区がこれまで廃プラを燃やさなかったからであり、一方、横浜市は分別しているので少ない。
 日本全体のプラ(一廃・産廃合計)の資源化・処分の合計1000万トン内訳をみると埋め立ては大幅に減り、マテリアルリサイクルが増えている。残りの部分が何らかの形で焼却している(単純焼却、熱利用焼却、廃棄物発電、固形燃料)。プラスチック業界は7割くらい有効利用していると言っているが、焼却が含まれるので有効利用の度合いが違う。
 廃プラリサイクルの動向としては、埋め立てを減らして燃やして熱回収するのが大きな流れになっており、23区もその流れ。本来は焼却よりリサイクルが優先、と法律には書かれている。

 リサイクルに踏み切れない理由は
  1. 自治体、事業者のコストに加え、リサイクルされたものが有効利用されているかという点とされている。廃プラの4分の1くらいしか容器包装プラとして集まっていない。残りの4分の3はどうするか。容リ法だけでなくもっと有効に集めなければマテリアルリサイクルはうまくいかない。PETボトルとその他プラは大きく違う。PETは価値があるので集めているのに燃やしているということはあり得ないし、その他プラは中国も買ってくれないから輸出されることはない。
  2. 容リ法はわかりにくいのも問題。分別するところ以降の流れが見えない。お金の負担も見えにくい。本来は容リ法で燃やすプラが減れば、焼却コストが減る、さらには将来の焼却炉建設がいらなくなるかもしれないので、本来は負担増だけでないはずだが、分別収集にお金がかかる話ばかり指摘される。
  3. PET以外は現状ではモノからモノにマテリアルリサイクルするのは容易ではない。なかなか高機能のものは出来ない。鉄鋼業で石炭の代わりに還元剤としてプラスチックを使う。これにより燃やさなくて済む。サーモセレクト方式も再処理方法として使われている。セメントキルンに入れてセメントの原材料にする、RPFにする、油化する等の方法もある。
 よく言われるのがリサイクルは金がかかるのでエネルギーも使っているのではないか、という指摘があるがそれが誤解。リサイクル費用の多くを占めるのは人件費と思われる。
 ケミカルリサイクル(鉄鋼業)すると焼却・発電(効率10%)よりプラ1kgあたりCO2排出量を2kg減らせる。高効率焼却発電より分別・リサイクルの方がCO2削減効果は大きいという研究成果が出ている。

 コストで言えばモノに戻した場合には重量あたりの価格が原油から作った樹脂と比較して4倍になってしまう。リサイクルした場合にはCO2は大幅に減らせるが、これだけお金かかるのであれば、そのお金を別の温暖化対策に振り向けた方がいいという意見もある。その数値を示して議論すべき。

 今後の提案としては、
  • 使い捨てプラを使うと負担が増える課税等の仕組みが必要。
  • 塩素系のプラの削減も必要。
  • リサイクルするにしてももう少し消費者の負担(手間)の少ない分別方法が必要。
  • 現在の容器包装の枠組みにこだわらず、楽に沢山分別できる仕組みが必要。
 技術に頼るだけでもだめだが、消費者の心がけだけでやってもらうというのも現実的ではない。うまく組み合わせていかないと。今の非合理なところが沢山ある制度を改善して公平な負担で有効な仕組みを考えることは可能だが、リサイクルだけでごみ問題や資源問題を解決できるわけではない。
 少しでもこのような方向に動くように国の行政に働きかけていきたい。


第三部

Q:一組には技術職員がいるのに科学的調査になっていないのは?
A池田、鷹取:目的ありきの調査だからという面もある。

Q:排ガスは規制値以下と一組がいっているがTDIとの関係は?
A池田:摂取は大気経由だけでない。TDIの国際的な見直しに準ずることも必要。排ガス規制値の見直しや、環境基準の見直しは必要。

Q:今回の実証確認では、予算の無駄という話が出たが一組と事業者の癒着があったのでは。
A池田:入札情報は、一般入札か競争入札かにもよる。予定価格との差、落札率などをみれば談合が分かる可能性もある。今回の実証確認で分析機関はかなり美味しい仕事をした可能性もある。

Q:炭化炉が環境によいかどうか
A村田:あまり評価していない。原理的には炭素の固定化として考えなければならないが、出来たものの質がよくなかった。ただCO2の地中貯留方式などと比べると炭素固定化がよい。

A森口:一般論として廃プラをガス(燃料)、油(燃料、プラ)、固形分(コークス)に利用できる。重金属等の有害なものが入っているので、それをどう分けるか。炭化炉については出来たものをどう使うかという問題がある。ガス化溶融炉は助燃剤が必要。灰は少なくなり可燃ガスと資源を取り出す。

Q:サーモセレクトについて(彩の国資源循環工場で採用されている)
A村田:日高市では廃プラをセメントキルンに入れている。灰はセメントに入るので廃棄物は残らないが、食塩が入っているので鉄筋コンクリートには使えない。路盤材には使える。
A森口:ドイツのカールスルーエはトラブルで撤退した。今はメーカーも自治体向けは考えていない。酸素発生装置が必要だから。製鉄所には最初からある。エネルギー多消費型・高負荷型といえる。

Q:RPFについて
A森口:RDFは問題があるがRPFは検討に値する。製紙工場の石炭の代わり。ただし塩素による配管の腐食の問題。

Q:ダイオキシン、PAH、ニトロPAHの問題について
A森口:絶対問題ないとは言えないが、絶対問題だ、とも言えない。環境中に蓄積された過去の分もあるのでゴミ起源だけを減らせばよいということには必ずしもならない。

Q:焼却炉の数が多いことについて
A森口:小規模のものの数が多いことが特に問題。100年以上前からの原則が残っている。広域から集めて大規模化した方が対策コストもかけられ有害物質も減らせる。小規模でも技術的になんとかならないか。

Q:ピークオイルについて
A森口:資源を節約する中で環境対策をやっていく必要

Q:ナフサ課税について
A森口:基本的には同意だが、塩ビならではの使用分野もあるので一概には言えない。短寿命のものには塩ビは使うべきでない。ナフサにではなくて用途毎にかけるべきだと思うが制度として複雑すぎるかも。家庭で使用するようなものは焼却されやすいため、塩ビを避けるべき。

Q:PET自動回収機はエネルギーがかかりすぎるのでは
A森口:フレーク状にするものであればその後の処理もあるので意味がある。

Q:トレイ容器プラについて
A森口:これだけを分けてくださいというのは難しい。食品は汚れがあるがそれ以外の容器を統一していければ。

Q:生ゴミを可燃ゴミとすることの問題は
A森口:可燃物とするのは合理的ではない。日本でも堆肥化の試みがいくつかある。出す側からすれば生ゴミだけ分けるのが現実的か疑問。ディスポーザーは水と生ゴミを一緒に回収する方法としてはありうるのでは。ただ農家が堆肥を使ってくれるかが問題。

Q青木:実証試験は、科学性・公平性に欠けるとの報告があったが、廃プラ焼却の影響はどのように読み取れたか?
A鷹取、池田:実証データを見検証する価値もない試験と思ったが、見てみたら前後で傾向が見られるデータもあった。悪化している物も多くその意味では問題。すぐさま健康影響があるという問題ではないかもしれないが、長期的には問題。大気経由のリスクを軽視するのはよくない。東京23区の場合には、大規模な焼却炉が集中しているため、累積的広域的、複合的な汚染への暴露についてきちんと対応すべき。

Q青木:今後の環境調査のあるべき姿は
A鷹取、池田:科学的であることと、手法・項目の検討段階からの住民参加の両方が必要

Q青木:廃プラを処分場に保管する考え方について
A村田:都市鉱山、都市油田の考え方。海上に備蓄して風力発電も設置してもよい。単に焼却するよりは、ベール化して保管した方がよほどよい。

Q青木:容器包装以外の製品プラを含めた廃プラリサイクルについて
A森口:容器包装だけでなく製品プラも集めてうまく分けて使うべき。現在環境省でも検討中。

Q青木:小児環境疫学調査について
A森口:事業仕分けに一旦のせられたが、国民の多くの方々から重要だとの指摘があり、最終的に満額ついた。3歳児、6歳児を対象に10年かかる細かい追跡調査。喘息有症率と沿道患者の調査でも思ったほど綺麗に関係は出ていないが。ヨーロッパでもアメリカでも広い意味での生育環境と健康の関係が着目されており、現状問題になっている有害物質だけでなく広く対象となっている。


以上 メモ作成:文責 池田こみち・鷹取敦(環境総合研究所)