東京新聞2003年3月24日夕刊

国内全部炎上なら京都議定書を相殺

イラク戦争めぐるCO
2排出年間予測
油井火災再び"環境大量破壊兵器"
『湾岸』時 日本にすす飛来黒煙、大気に打撃



            
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 イラク戦争に伴いイラク国内で油井の炎上が伝えられている。火災の規模によっては、温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)や大気汚染物質の大量放出による気侯変動や環境汚染の懸念が強まっている。

 大規模な油井火災が続くと、大量に放出されるCO2が地球温暖化を加速するほか、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)は周辺住民に健康被害を与え、酸性雨をもたらして植物など生態系にも悪影響が出る。NOxは成層圏に達するとオゾン層破壊にもつながり、エーロゾル(大気中に漂うすす)は日射をさえぎって気温が低下、農作物などに被害が出る恐れもある。

 湾岸戦争では、クウェートで五百以上の油井が炎上、鎮火まで九カ月かかった。空は黒煙で覆われ日中の気温が普段より十度前後も低下、悪臭が漂った。さらに同国上空では、高濃度のSOx、NOxが確認され、ぜんそくなど呼吸器疾患が増えたという。

 周辺諸国でも油を含んだ黒い雨、ヒマラヤでは黒い雷を観測。油井火災が原因とみちれるすすは、ジェット気流に乗って日本やハワイの上空まで達した。

 湾岸戦争の環境破壊を調査した環境総合研究所(東京都)、の青山貞一所長によると、中東の油井は自噴式で一日一万バレル、ポンプ式で同二千−五千バレルの原油が出る。

 青山所長の試算では、イラク全体の25%の油井が炎上すると一日五十万バレルの原油から五万四千トン(炭素換算)のCO2を排出。年間で二千万トン弱に達し日本に比べれば十分の一以下だが、スウェーデンやハンガリー一国並みの排出量に相当する。さらに50%の油井が炎上すると、年間排出量はベルギーやチェコに匹敵。全部の油井が炎上した場合は豪州並みの大排出源となり、京都議定書による各国の温暖化防止の努力が相殺されるという。

 SOxは原油の硫黄含有量によって、NOxは燃焼温度によって排出量も変わる。青山所長は「今回が湾岸戦争時ほど大規模な火災になるか分からないが、汚染物質は上空の風に流されて東に広がる」と推測している。