平成15(2003)年5月1日

司法制度改革推進本部
事務局長 山 崎  潮 殿

                        日本弁護士連合会
                         事務総長 大 川 真 郎

行政訴訟検討会における運営上の問題点(申し入れ)

 行政訴訟検討会では、これまでこの改革の重要性を認識し、幅広い観点から議論がなされ、行政訴訟制度の抜本的改革の方向性が多数の委員により共有されてきた。そして、第15回検討会では、@これまでの議論を踏まえて委員全員の意見の一致を見た論点とそうでない論点についての整理を行うこと、及びAこれまでの委員の意見を整理することを事務局に委ねることとされた。

 然るに、2003年4月25日に行われた検討会では「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」と題する文書が配布され、これまでの議論を踏まえて検討の方向性につき概ね一致を見た論点(被告適格、管轄、出訴期間等の教示などがこれにあたるとして整理されている。)については、「第一トラック」と称して法改正に向けた検討を優先的に進めることとするが、それ以外の全員一致を見ていない論点(訴訟対象、原告適格、団体訴訟など多数)については、「第二トラック」に分類され、法制化を念頭に置いた第一トラックの論点とは異なり、時間的制約の観点から出来る範囲で検討を行うこととしてはどうかという提案が、突然なされた。

しかし、第一トラックには、例えば「審理を充実・迅速化させるための方策の整備」という事項が、抽象的な整理によって「検討の方向性が概ね一致している」と分類されているが、例えば原告適格の拡大、訴訟対象の拡大については一部委員の反対があるだけで検討の方向性が概ね一致している事項であるにもかかわらず第一トラックに分類されていないなど、第一、第二トラックの分類は恣意的であり、事務局は、第一トラックに分類された僅かの論点について「概ね一致」を見たと称して、改革事項をこれらの論点に限定し、これで改革を終わらせようとしているのではないかとさえ危惧されるところである。これまで行政訴訟検討会では多数の論点について全面的な検討を加え、国民の関心を集めていたが、このようなやり方では、第一トラックの改革点に、第二トラックの論点を幾つか付け加えるだけの内容に乏しい改革に終わってしまう恐れがある。

 行政訴訟改革の重要性に鑑みるとき、このような重要論点の事実上の切り捨ては決して許されないし、検討会委員の意見が完全に一致を見ないことを理由に重要な改革を先延ばしにすることも許されるものではない。

 さらに憂慮すべきことは、第一トラックと第二トラックの分類及び各論点に関する資料の作成にあたっては、少なくとも最高裁及び法制局が事前に関与していることが偶然に明らかとなったことである。すなわち、Eメールにより事前送付された資料の文書情報の「見出し」欄には、「法制局修正」「最高裁修正で確定」「最高裁案に修正をしたもの」「最高裁意見+法制局見え消し」「最高裁案で確定」などという文言が見られる。もし、今回の検討会でどこまでの改革を行うかを事実上決定しかねない「第一トラック」に含まれる論点について、事務局と最高裁及び法制局との間の実質的な事前協議があったとすれば、これは、国民のチェックのもとに司法改革を行うという姿勢に反することであり、法曹三者から独立して高い立場から司法の改革をおこなう司法制度改革推進法の精神を踏みにじるものにほかならず、検討会軽視と言わざるを得ない。

 日弁連は、司法制度改革推進本部事務局に対し、このような事態についての反省を求めると共に、審議会意見書の趣旨に従った行政訴訟制度の抜本的改革を実現するため、下記の3点を強く要請する。

1.いわゆる第一トラック、第二トラックの分類をやり直すこと。その際には、第6回フリートーキング参考資料の諸論点のうち、全検討委員の意見の一致を見ない論点であっても、多数決により改革の方向性を決して第一トラックに分類し、法制化に向けた検討を行うこと。

2.検討会における委員間の議論を尊重し、最高裁及び内閣法制局との事前協議によって実質的な議論の方向性を作らないこと。

3.検討会の開催回数を増やし、また作業グループを設けるなど、時間的制約の問題を解決するための方策を早急に検討し実行に移すこと。

以 上