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2002年4月8日

司法制度改革推進本部
行政訴訟検討会における陳述


青山貞一 
環境行政改革フォーラム代表幹事

 ●司法制度改革推進本部事務局行政訴訟法検討会(11人) (五十音順) 

  市村  陽典  (東京地方裁判所判事)
  小池  信行  (法務省大臣官房審議官)
  小早川光郎  (東京大学教授)
  塩野   宏   (東亜大学教授)
  芝池  義一  (京都大学教授)
  成川  秀明  (日本労働組合総連合会総合政策局長)
  芝原  靖典  (三菱総合研究所社会システム研究本部長)
  萩原  清子  (東京都立大学教授)
  福井  秀夫  (政策研究大学院大学教授)
  堀江  正弘  (総務省大臣官房審議官)
  水野  武夫  (弁護士)  



公述人(青山貞一)  

 わたくしは、環境行政改革フォーラムの代表幹事青山貞一と申します。この度は、行政訴訟検討会で貴重な発言の機会を頂き感謝しております。

 本業は、環境政策分野の民間シンクタンク、環境総合研究所の代表をしています。同時に首都圏の4つの大学で環境科学、環境政策、公共政策の講義を非常勤で担当しております。

 フォーラムは、環境行政の質的な改革を目的として11年前に設立された非営利の政策提言団体であります。環境科学、環境政策、環境法の分野の専門家と、全国各地で公共事業がもたらす環境問題の解決に努力している住民団体や個人により構成されています。

 フォーラムでは、設立の趣旨、目的を達するため、行政分野の改革だけでなく、立法や司法の改革についても、さまざまな取り組みを日夜しております。具体的には、省庁の政策立案段階での審議会、検討会への意見、パブリックコメントの提出、公聴会への参加、立法分野では国会の予算委員会、環境委員会。国土交通委員会、総務委員会などでの重要法案における参考人や公述人として参加、さらに行政訴訟、民事訴訟を問わず裁判に証人として出廷するなどをしています。

 本日の陳述との関連では、財政負担と環境負荷や環境影響をもたらす政策や大規模公共事業の社会経済的な<必要性>、科学的、環境面からの<妥当性>、適正手続的面での<正当性>を、第三者的立場で評価、判断する手段としての司法の役割、また、ひとたび著しい影響、被害が起きてから事後的に救済することから脱し、予防的、未然防止的な措置をとることについての司法の役割が課題となります。

 資料1は、フォーラムが司法制度審議会に出した意見書です。すでにお目通しのことと思いますので、時間の関係で詳細にはふれません。

 資料1では、過去、わが国の環境関連訴訟の実態を道路、ダム、埋め立て、廃棄物処理処分などの事業分野ごとに整理し、その課題と問題解決の方向性を示したものです。

 ご承知のように、行政訴訟、とくに環境問題に関連した取り消し訴訟、差し止め訴訟などの抗告訴訟では、訴えの利益、処分性にかかわる問題で、大部分が訴訟そのものに入れない現実があります。これは現在でも大筋で変わっていません。

 行政訴訟、とりわけ環境行政訴訟は機能不全に陥っていると言っても過言ではありません。まれに初審で勝訴することはあっても、上級審でひっくりかえっています。せいぜい和解で実質的に勝訴することがある程度と言えます。また最近の小田急電鉄の高架化をめぐる行政訴訟のように、まれに行政訴訟に勝訴しても、裁判中も事業が進み、勝訴した時点で事業が完了していると言ったことも問題です。

 環境問題は、ことが起こってからの対応では遅く、どうしても未然防止的、予防的な対応が大切です。対象が国、自治体の公的予算をつぎ込む公共事業の場合には、費用対効果の観点からも重要なものとなります。

 司法的に申せば、差し止め訴訟や取り消し訴訟などの抗告訴訟や環境アセスなど行政計画の策定過程での行政訴訟が有効に機能することが重要なものとなります。

 昨今、大規模公共事業が国家、地方財政に及ぼす影響が問題となっていますが、これらの事業の多くは環境にも著しい影響をもたらしているものが多いと言えます。

 しかし、資料1にあるように環境に係わる行政訴訟、とりわけ抗告訴訟は実質的に機能不全となっており、住民側は事後救済的な措置として、民事訴訟や国家賠償訴訟、さらには住民訴訟、情報公開法にもとづく訴訟しか使えない状況にあります。

 住民や環境団体にとって、最後の頼みの綱の裁判が、資料1にあるようにその大部分が機能不全に陥っていること自体、きわめて遺憾であり社会的にみても大きな損失であると言えます。

 環境問題では、本質的に未然防止、予防的な対応が重要なのに、事後的な救済でしか対応できないこと、事後救済であればあるほど費用がかかるということは大きな社会問題であると同時に経済問題でもあると考えます。

 したがって、環境問題の観点からは、抗告訴訟、処分取り消しや差し止め訴訟を活発化させることが問われます。

 以下に改革のポイントについて述べます。

 まず第一は、立法行為に関するものがあります。

 現状では、大部分の行政法が政府提案法案として制定されています。

 ここでの問題は、よく言われるように、泥棒に金庫番、猫にカツブシの番をさせるに等しいことにあります。その結果、実体法、手続法を問わず、行政機関や官僚の裁量が大きなものとなり、行政の都合で法の解釈がねじ曲げられる可能性が大きくなります。

 したがって、読み方により結果がきまる現行の政府提案法案ではなく、実体法にきめ細かく、権利、とくに環境に係わる権利を書き込み、また行政の義務、計画法の場合は計画策定の期限、規制法の場合は明確な基準などをきめこまかく書き込むことがあります。

 環境権、人格権と言った権利を明確にする必要もあると思います。また現行の都市計画法には環境のカの字もないことが問題となっています。21世紀は環境の時代であり、まちづくりの基本となる都市計画関連法制に環境保全、環境配慮を明確に書き込む必要があります。

 わたくしは、この5年で6回、環境法の制定過程で国会の環境委員会、予算委員会に参考人や公述人としてでて、意見を述べてきましたが、その大部分は、内閣提出法であり、意見を述べた直後に、委員会裁決となり、専門家の意見はアリバイ的にしか扱われていません。

 また法案が国会の委員会で審議される以前に、省庁間で各種の覚え書きがとりかわされており、委員会審議そのものが形骸化、空洞化している現実も見逃せません。

 さらに、議員提案法案の場合でも、法の骨格を議員がつくっても、皮、肉さらに血、具体的には政令、省令、規則、技術指針などの制定が行政の専管事項的になっている現実があります。これをどうするかも大きな問題です。

 したがって、司法制度改革と平行し立法改革、すなわち立法による行政の徹底したコントロールが不可欠となります。そこでは行政の裁量をいかに極小化し、誰が見ても読んでも分る実体法とすることが問われています。その実体法の存在をもとに裁判を起こせるようにすることです。

 第二のポイントは、原告適格性です。

 しかし、行政訴訟の機能を回復するためには単に原告適格を拡大すると言うことだけではだめです。

 具体的には、上述のように個別の実体法を拡充するとともに、そのなかに、米国の環境法のように、市民訴訟を組み込むことが望まれます。この市民訴訟は、日本の住民訴訟が財務会計上の問題に限定されているのに対し、たとえば大気浄化法や水質汚濁防止法などの実体法の目的、政策、施策に踏み込んで審議できるものです。

 日本では残念ながら、住民訴訟制度が今国会で大幅に改正されていますが、米国では実体法及びその規則に置いて権利義務を明確に書き込むだけでなく、私人、住民が行政訴訟を起こしやすくするために、実体法のなかに市民訴訟条項を入れることにより、訴訟を起こしやすくしているのが大きな特徴です。

 一方、ドイツでは団体訴権といって、あらかじ環境NPO/NGOなどの市民団体を一定の用件のなかで登録し、それらの団体に行政訴訟の原告適格を認めています。

 わが国で行政訴訟を国民、市民、NPO/NGOなどに近づきやすくするためには、市民訴訟(呼び名は国民訴訟、住民訴訟でもよい)を環境法、行政計画法のなかに組み込むことが不可欠です。

 3つ目のポイントは処分性です。

 わが国では、行政計画、法定計画の立案段階での処分性が問題となってきました。

 30年間、霞ヶ関や自治体の政策立案支援をしてきたわたくしの経験からすると、多くの問題の本質的原因は、この政策立案や計画立案にあると思います。したがって、この段階で裁判を起こせるようにすることが問われます。計画段階で情報公開と合意形成をおろそかにしておいて、土地収用法を改正し、土地の強制収容をし易くするのは、本末転倒であると考えます。

 わたくしは30年以上前に米国のジャクソン上院議委員ら議員立法で制定した国家環境政策法、通称NEPAを環境庁からの委託調査のなかで詳細に調査しました。このアセス法は手続法です。

 当時、大統領府(CEQ)にいた専門家、のちにコーネル大学で公共政策の教授となった方によれば、この米国の環境アセス法、すなわち国家環境政策法を生かすのは、一も二もなく官僚や環境コンサルタントを裁判の場に引きずり出し、証拠を出させ議論することにあると言っていました。

 同法の大きな特徴は、個別の開発事業だけでなく政策、計画など行政行為全般、それも政策及びび意思決定過程を対象に政策代替案の作成を義務づけた上で、司法審査できることにあると言えます。ジャクソン議員の立法趣旨説明に、あるように、連邦行政のより高い、より早い段階から環境配慮を盛り込むこととあります。

 NEPAをめぐる行政訴訟の実態を資料2に示します。

 資料にあるように、原告適格を大幅に認め、実質審議に入ることで、アセスメントの不備が明らかになっています。

 たとえば、NEPAを根拠に、1970年から1977年末までに行われた連邦行政行為の環境アセスメント全体の約9%(938件)が提訴を受け、その32%に原告適格が認められ、さらにその25%(1/4)で原告側の主張が認められています。

 行政手続法、情報公開法、環境アセス法は、日本はいずれも米国に30年以上遅れて制定、施行されましたが、アセス法を生かすためには、これらの行政法でいかに容易に、敏速に司法審査が可能となるかが重要だと思います。

 最後のポイントは、行政訴訟における原告、被告の間での訴訟実務をめぐる公平性の問題です。

 環境関連の訴訟は、行政、民事を問わず科学的、専門的なものが多いのが特徴です。これが裁判の長期化の原因と言っているとも言えます。

 被告となる行政側が多くの人材、費用、情報 を有しているのに対し、住民側はすべての面で厳しい状態にあります。したがって原告適格が認められた行政訴訟における公平性を確保するためには、住民側を専門的、実務的に支援する人材と資金の確保が大きな課題となります。

 具体的な解決の方向性としては、住民側が行政に勝訴した場合、行政側が住民側の弁護費用とともに、専門家が証拠、意見書、陳述書などの作成に要した費用を一定基準のもとに負担 することが望まれます。

 米国の行政訴訟ではこれが実現しており、上述のNEPA訴訟で有名な環境訴訟専門家集団のNRDCやEarthJusticeなど弁護士や専門家を擁するNGO/NPOの財源負担を軽減しています。

 なおこれについては、日本弁護士連合会も、「国民が利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法のあり方」(2000年6月13日)の「片面的敗訴者負担制度」の項で、行政訴訟、国家賠償訴 訟にも上記の趣旨に類する内容を実現するよう提案しています。

以上


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