毎日新聞 2003.3.26(水) 夕刊 | |
実物コピー版 環境に優しい戦車はない――。91年の湾岸戦争の際、戦争による環境汚染を予測し、シミュレーションを行った民間シンクタンク「環境総合研究所」の青山貞一所長は「戦争は最大の環境汚染」と強調する。開戦から間もなく1週間。今回のイラク攻撃でも、環境への深刻な影響が指摘され始めている。 イラク戦争、燃える原油 ◇大気汚染 クウェートの砂漠の油井からすさまじい炎と黒煙が立ち上っている光景は、湾岸戦争を象徴する光景だった。今回もイラク国内の油井が炎上しているという情報が飛び交った。イラク軍が、黒煙を利用して米英軍の爆撃を妨害するため、地面に掘った溝で原油を燃やしているとされる映像も流れた。 油田火災や戦闘行為に伴う大気汚染について、青山所長は「長引けば気候変動も招きかねない」と懸念する。湾岸戦争時に青山所長が行った調査では、700カ所以上の油田火災が発生し、酸性雨の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物、さらに地球温暖化の原因とされる二酸化炭素、ばいじんなど大量の大気汚染物質が放出された。 環境庁(当時)の試算によると、1日250万バレルの原油が炎上し、1日当たり、日本全体の排出量の10日分にあたる1万7000トンもの硫黄酸化物が排出された。別の調査では、上空を覆うばいじんが日光を遮り、クウェートでは、夏の気温が平年より数度も低下したとされる。 今回、これ以上の油田火災が食い止められたとしても、大量に投下される爆弾や、戦闘機、戦車が排出する膨大な大気汚染物質による環境破壊も無視できない。兵器に環境対策は一切施されていないからだ。青山所長は「各国が長年取り組んできた環境保護の努力が無駄になる恐れがある」と話す。 ◇野生生物 国際的な野鳥保護団体、バード・ライフ・インターナショナル(BLI)によると、イラクには渡り鳥にとって重要な湿地や干潟が42カ所も点在している。チグリス、ユーフラテス川の合流地域に広がるメソポタミア大湿地には、毎年数十万羽の水鳥や渡り鳥が越冬したり、羽を休めたりしている。 湾岸戦争では、原油がペルシャ湾に流れ込み、おびただしい数の海鳥が死んだといわれる。今回も、パイプラインや石油施設が破壊され、原油がチグリス・ユーフラテス川に流れ込んだり、爆撃で湿地帯がダメージを受けると、貴重な自然が破壊される懸念がある。 ペルシャ湾は世界でも有数の閉鎖性海域のため、原油で汚染された海水が外の海水と入れ代わるのに時間がかかり、アオウミガメやジュゴンなど希少な生物のすむ生態系が破壊される可能性も指摘されている。 BLIのマイケル・ランズ博士はホームページで「油にまみれた鳥の画像がテレビ画面をいっぱいにすることのないよう祈っている」とのコメントを掲載している。 【足立旬子】 [毎日新聞3月26日] ( 2003-03-26-16:11 ) |