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21世紀の行政と国民の新たな関係をめざして
〜利用者の観点からの実効性のある行政訴訟制度の構築〜

国民と行政の関係を考える若手の会


2003年3月26日


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                         目   次

はじめに

T.制度目的の徹底

 1 機能不全を起こしている欠陥法から実効的・包括的な権利救済制度へ
 2 行政の適法性のコントロールの充実を
 3 形式的概念に基づく切捨てから、利用者の利便性を確保する制度へ

U.改革の方向

 1 取消訴訟中心主義の見直し
 2 門前払い構造の改革 
 3 本案審理の適正化  10頁
 4 執行力の制限、執行停止の原則化、仮命令など 
 5 救済方法を多様化し、裁判所が最後に判断すること

V.その他の重要な論点

 1 行政の適法性確保のための訴訟−納税者訴訟、計画統制訴訟、団体訴訟
 2 原告の負担軽減と当事者の経済的負担の公平化  
 3 裁判所改革  
 4 その他  

                はじめに

上下関係から対等のパートナーシップへー

 我々は、21世紀初頭に当たって、国民と行政の関係を全面的に再構築しなければならないと確信している。行政が計画し、指導し、富を分配する仕組みは、欧米に追い付き、経済を量的に拡大することが自明の目標であった時代には、それなりの有効性を発揮したといわれている。しかし、日本が世界有数の豊かな国になり、国民の価値観が多様化した今日、官主導体制の綻びは誰の目にも明らかである。21世紀の日本社会は、自由と自己責任を基調としつつ、国民一人一人が創意と個性を活かして伸び伸びと活動できる場でなければならない。他方、国民が心豊かで充実した人生を送るために必要なもののすべてを市場が供給できるわけではなく、行政の提供するサービスの重要性は、今後も変わらないであろう。国民と行政は、一方だけではつくり出すことのできない価値を提供しあう、対等のパートナーシップを築かなければならないのである。


 我々は、こうした基本的な考え方に立ちつつ、行政訴訟制度を当面の検討課題とした。こうした一見技術的なテーマを取り上げたのは、次の理由による。第一に、司法制度改革審議会意見書(平成13年6月)でも指摘されているように、事前規制型から事後審査型へと行政のスタイルが転換していくなかにあって、誤った行政活動を是正する行政訴訟制度は死活の重要性をもつ。第二に、一連の行政改革・規制改革は、行政実体法とその運用に大きな変化をもたらしたが、事後審査の最も重要な手段である行政訴訟制度の充実が伴わなければ、画竜点睛を欠くものとなる。第三に、利害が多元的な現代行政過程を前提とすれば、実効的な権利救済・適法性確保を実現する行政訴訟制度を整備することは、結局のところ社会的コストの削減につながるとともに、社会の安定化装置として機能するであろう。行政訴訟のシステムの改善は、日本社会における行政過程に対する閉塞感を除去することに寄与すると思われる。

 我々「国民と行政の関係を考える若手の会」は、志を同じくする若手国会議員に、弁護士・研究者が加わって結成された自主的な研究団体であり、平成14年9月以来9回の研究会を開催し、また独自のホームページを開設するなどして、精力的な活動を展開してきた。以下の提言は、この間に行われた自由で充実した議論の成果である。もちろん、裁判実務や学説の膨大な蓄積のある問題領域であるから、以下が完璧な提言案であるとは思っていない。本会としては、建設的な批判こそ望むところであり、以下の提言が、今後の議論の叩き台として大いに利用されれば、望外の喜びである。


T 制度目的の徹底

 国民の権利権益を救済するとともに、行政活動の違法性を是正して日本国憲法の定める法治国家を実現するという目的を十分に達成できる制度とすべきである。

1.機能不全を起こしている欠陥法から実効的・包括的な権利救済制度へ 

きわめて不備な権利救済制度 行政訴訟の機能不全 包括的・実効的な救済制度へ行政に圧倒的に有利なシステム (欠陥法)

 現行の行政訴訟制度は、国民の権利利益の救済の点できわめて不十分であり、深刻な機能不全に陥っている。行政活動の違法を審理する(本案)ための前提となるいわば門前での訴訟要件が厳格でわかりにくいこと、本案に入っても行政裁量が広範で原告にはその違法を立証することが至難であること、仮の救済である執行停止制度の認容要件が厳格で、違法行為も先に執行されてしまいやすいこと、給付の拒否に対して積極的な状態を形成したり、違法行為を行う第三者への行政処分を命ずる義務づけ訴訟や、違法行為を事前に防止する差止訴訟が原則として許容されていないこと、生活保護の給付や高校合格を仮に義務づける仮命令が認められていないこと、違法行為の仮差止めなどが認められないとされているためである。

  訴訟制度は、憲法上・法令上の諸権利と裁判を受ける権利を包括的かつ実効的に保障するものでなければならない。救済ルールの不明確性により救済が妨げられることは絶対にないようにしなければならない。

 これらの問題は、国民と行政の間の力の格差により増幅されている。すなわち、現在は行政が資料・証拠の入手、専門的な知識・情報の入手、資力、時間などの部分において圧倒的に優位に立ち、私人は十分な時間・予算・労力を投入することが困難である。行政側に圧倒的に有利な制度になっている。

 国民と行政との関係においては、このような力の差を是正して、対等な関係が確保されるような行政訴訟制度を構築すべきである。

  2.行政の適法性のコントロールの充実を

適法性を確保すべき分野では、権利救済訴訟とは別の制度構築を

 さらに、国民は自らの救済とは直接に関係のない行政活動の違法については、司法により是正する手段を原則として有しないとされている。

 ここで、そもそも行政訴訟制度の目的を正しく認識しなければならない。中途半端な現行制度を見直し、権利救済と行政の適法性の確保というそれぞれの目的に応じた適切な訴訟形態を構築すべきである。

 行政訴訟の目的は、国民の権利救済と、行政の適法性の確保であるとされるが、現在のしくみでは、たまたま権利を侵害された私人が、たまたま訴えたときに限って、その行為に関する適法性だけが確保されるという結果となる。どちらの目的も、中途半端にしか達成されていない可能性が高い。

 適法性確保を徹底したい分野では、むしろ端的に計画・環境・公金違法支出などに関する適法性確保訴訟の類型を正面から認めるべきである。

 米国では納税者訴訟は権利救済訴訟として扱われるが、日本においては最高裁判例が、「裁判を受ける権利」ないし「法律上の争訟」を限定的に解釈している以上、単なる法解釈では当然には権利救済訴訟にはならない。立法により明示の規定をおくべきである。  


3.形式的概念に基づく切捨てから、利用者の利便性を確保する制度へ

権力分立、行政の大一時的判断県、公権力の行使、裁量と言った形式的概念に基づく切り捨てを廃止。制度利用者の利便性の確保=包括的・実効的な権利救済制度の実現

これまでは、権力分立、行政の第一次的判断権、公権力の行使、裁量などといった、極めて抽象的で曖昧な形式的概念から、ただちに一定の結論――それも訴訟のルートに乗りにくくするような結論――を導くことが少なくなかった。この改正に当たっては、以上のように、行政訴訟の目的を権利救済と適法性の確保にきちんと整理したうえで、具体的な制度設計に当たっては、そうしたことのないように注意すべきである。

また、訴訟制度の設計もユーザーの利便性の観点から考えられるべきであり、特定のドグマに固執して、ある一定の制度しかありえないといった硬直した態度をとるべきではない。特に、義務づけ訴訟とか取消訴訟などという、訴訟類型をはじめに決めなければならないという発想法は危険であり、まずは包括的な救済手段を認め、ユーザーの使い勝手のよい方法に結果的に収斂していく方向をとることが望ましい。現に、民事訴訟の大部分が給付訴訟であるのは、立法者が予めそのように制度設計したからではなく、他の訴訟類型に比べて、権利救済として直截で強制執行がしやすいという、ユーザーにとっての使い勝手のよさに由来するのである。


V 改革の方向

1.取消訴訟中心主義の見直し

いわゆる取消訴訟中心主義を廃止して、義務づけ請求、差止請求などの多様な請求に裁判所が柔軟に答え、救済方法を多様化する必要がある。 取消訴訟のいわゆる排他性(公権力の行使について取消訴訟でしか争えないというルール)を大幅に縮小すべきであり、また、民事訴訟との平仄を確保し、相互の関係を整理すべきである。

(1)救済方法の多様化

 行政事件訴訟法はいわゆる主観訴訟の訴訟類型として取消訴訟を原則とし、そのほかには出訴期間が徒過した場合の無効確認訴訟と給付の申請に対する行政の不作為に対して単にその違法を確認するに止める不作為の違法確認訴訟しか明示していない。

  不利益処分なら取消(あるいは違法の確認、違法の除去)だけで十分であるが、給付を求める場合には取消(やり直し)は迂遠であり、求められた特定の行為をせよというほうが迅速な権利救済といえるので、義務づけ訴訟を認めるべきである。たとえば、生活保護が拒否されたり一部支給されたとき、その取消ではなく、積極的な給付を認めるのが直截である。著しく違法な隣地の建築物のために日照を奪われているケースでは違反者に除却命令を発すること、原発が許可された後最新の技術水準に適合していないとき原発設置者に改善命令を発することを監督行政官庁に求める訴訟が必要である。

  不利益処分でも、処分が行われてから争うよりも行われる前に争う方が、救済としての実効性を確保できる。処分が行われる前でも、法的判断に熟していて、事後の救済が困難な場合には差止訴訟を認めるべきである。たとえば、東京都の外形標準課税のように、論点が条例の違法性だけの場合には、具体的に課税処分を行って、いったん納税させてから裁判を行うよりも、条例が制定された段階で早期に法的解決を図る方が原告だけではなく被告にも有利なはずである。

 むしろ、司法権の役割、裁判を受ける権利の保障の観点からは、これらの制度がないことは欠陥と評すべきである。

 さらに、本案訴訟である義務づけ訴訟、差止訴訟だけではなく、その仮の救済である仮命令、仮差止めは、裁判を受ける権利の実効性の保障の観点から不可欠である。たとえば、生活保護を違法に拒否された場合に仮の支給を求める仮命令、違法な代執行がなされそうな場合の仮の差止めがそうである。

 しかし、現行法では、義務づけ訴訟、差止訴訟が明示されていないため、裁判所は消極的な対応をすることが一般的であり、結果として、国民の救済も行政の適法性確保も不十分なものにとどまっている。

 この取消訴訟中心主義の根拠として、行政の第一次判断権の尊重があげられることが一般的である。行政が判断する前に裁判所が判断することは行政権を侵害するから、義務づけ訴訟や差止訴訟は原則として許されないというのである。

 しかし、裁判である以上は、行政の主張を踏まえずに判断することはないのであるから、その第一次判断権は当然に尊重されている。むしろ行政は、もともと法律に基づき判断する義務を負っているのであるから、裁判所は行政にその判断を促したうえで、法的な判断をすべきなのである。したがって、行政の第一次的判断権を理由に、申請されているある行為の義務づけや、行政が行おうとする不利益処分の差止めを求めることを排除する理由はおよそない。

(2)いわゆる取消訴訟の排他性の縮減

 現在は、取消訴訟が可能であるということは、すなわち他の手段、たとえば民事訴訟において同じことを争うことを禁止することを意味するという見解が多い。行政行為の公定力、取消訴訟の排他性とも言われる。しかも、取消訴訟には原則として3ヶ月の出訴期間が伴う。したがって、取消訴訟の範囲が広がると、今のしくみを前提とするなら、争いの対象が拡がる反面、逆に、出訴期間を過ぎてしまって、二度とどのような形式によっても争えなくなってしまう事態が発生する。たとえば、保育所の国庫補助が児童福祉法・同法施行令に定める2分の1におよそ満たないのは違法であるとして摂津市が国を訴えたいわゆる摂津訴訟は、民事訴訟ないし当事者訴訟であったが、裁判所は補助金適正化法による交付決定の取消を求めるべきだとして訴えを却下した(東京高判1980・7・28行集31巻7号1558頁)。だが判決時点では、もはやそのような取消訴訟を提起する余地はなかった。

  また、大阪空港訴訟最高裁判決(最判1981・12・16民集35巻10号1369頁)は、空港騒音差止めの民事訴訟において、航空行政権を侵害するとして、「行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかく」民事訴訟は許されないとした。しかし、そもそも行政訴訟が許されるかどうかすら明らかにせぬまま訴えを拒むことは、裁判の拒否という違憲状態に通ずる。

 さらに、取消訴訟に排他性を認めるがゆえに、出訴期間を過ぎた場合の例外的な救済として、単なる違法ではなく「無効」である場合に限って民事訴訟で争うことが認められるが、このために「無効」という、一般に「重大かつ明白な違法」があるとされる「普通の違法ではない違法」類型が派生し、それを維持せざるを得なくなっている。このような区別は、何らの客観的な基準もない恣意的なものであり、複雑で技術的な分類自体がもたらす社会的コストを勘案するならば、排他性のドグマがもつ弊害は耐え難いレベルに達している。そもそもこのような分類自体を必要としない制度にこそ転換すべきである。

 こうした制度は、およそ公権力の行使については民事訴訟が許されないという理論に基づいていると思われるが、今日ではそうした理論は妥当性を喪失している。もし行政訴訟制度がなく、民事訴訟しかないと仮定した場合、公権力について救済方法がないとすれば、法治国家原理への違反、裁判を受ける権利の侵害として、憲法上とうてい許容されない日本国憲法制定の直後には、現にそうした見地から、公権力の行使もすべて民事訴訟の対象とされていた。取消訴訟は後からそれに付加された救済ルートに過ぎず、もともと憲法上開かれているはずの民事的な救済ルートを閉ざす制度と考えるべきではない。

 したがって、取消訴訟という救済ルートが認められることと、当該ケースについて取消訴訟以外の救済手段が認められないということとの間には、理論的に何の関係もないというべきである。もっとも、民事訴訟においても、給付請求が権利救済手段としてより直截である場合には確認請求の利益はないとされており、同様の考慮が行政訴訟について当てはまる場合もある。しかしそれは個別のケースごとに判断される極めて技術的な問題であり、取消訴訟が認められる類型にはおよそ他の救済手段が認めらないなどといった包括的な結論を導くものではない。この趣旨を明らかにするため、立法措置により取消訴訟と並んで他の救済手段の門戸も広く開いておくべきであり、しかもその門戸も予め法律において細々と特定するのではなく、ユーザーが自らの使い勝手に従って自由に選択できるようにしておくべきである。

 このように、立法的手当てにより民事訴訟においても公権力の行使に関する判断をすることが許されるとすべきであり、それを禁止するのは、それについて適切な行政訴訟があることが明確に示されている場合に限るべきである。

2.門前払い構造の改革

現在は、出訴期間の徒過、処分性(訴訟の対象性)の欠如、原告適格欠如、管轄の誤り、訴訟形式の誤り、時間の経過による訴えの利益の喪失、被告の判定の誤りなどの理由で、実体審査を受けることなく不適法として却下されている行政訴訟が少なくない。このような門前払い判決が多発する構造を徹底的に改善する必要がある。その主要点を指摘する。

(1)出訴期間は原則廃止せよ

 現行法は、取消訴訟について一律に原則として3ヶ月の出訴期間を設けているが、このことに必然性はない。出訴期間を設ける趣旨が、仮にあまり長い間処分が確定しないと、関連資料が散逸してしまうからという法的安定性に求められるのであれば、同様の目的のために一般に時効制度が存在しているのであるから、3ヶ月という短い期間を正当化することはできない。

 行政庁と処分の名宛人の私人以外に、合理的な因果関係に基づく影響の及ぶ利害関係者がいない処分については、短期間に処分を確定しなければならない理由がない。たとえば、課税処分のように、ある義務が私人に課されて、金銭が行政に入るのか、それとも私人の手元に残るのか、という論点に収斂するような事件、営業許可を拒否された例がこの例である。したがって、これについては出訴期間を廃止し、時効制度に委ねるべきである。単なる違法か、無効かの区別があいまいで混乱をきたしているという事態も、出訴期間を廃止することで回避できる。

 例外として、農地買収処分、滞納処分、収用裁決のように、第三者の権利関係を形成し、これらの処分が取り消されると権利を害される第三者が存在する場合に、さらに、営業許可に第三者が争う場合などのような例では、長期にわたっていつ出訴されるかがわからない状態が持続することは行政処分の実効性や利害関係者の地位を不安定にするので、時効よりも短期の出訴期間が必要とも考えられる。

 しかし、現行法のような3か月の出訴期間がただちに正当化されるものではない。私法の場合には、取り消し得べき法律行為の第三者は、取消権の消滅時効(5年)が経過しなければ自己の権利関係が最終的に確定しないし、さらに、無権利者から不動産を譲り受けた者は、取得時効が完成しなければ当該不動産の所有権を確定的に取得することはできない。取引にリスクが潜在するのは当然であり、行政処分が介在する場合だけ、早期確定の要請が突出して強いとは直ちにはいえないはずである。また、第三者の地位の不安定を解消するには、民法上の催告権のように、当該第三者が処分の有効性を確定するための手段をとれるようにしておけばよい。

 したがって、出訴期間を認める例外が不当に拡大しないように歯止めが必要である。

 なお、取消訴訟という救済ルートが認められるからといって、取消訴訟以外のルートが認められないという「排他性」を必然的に伴うものでないことはすでに述べたとおりであるが、仮に例外的にこうした「排他性」を伴う行政の行為があるとしても、出訴期間の制限を伴うべきか否かはまったく別問題であることに注意する必要がある。すなわち、行政の違法行為を是正するために、広く取消訴訟の提起が認められるが、そのなかで例外的に、行政訴訟による救済しか認められない、つまり、「排他性」をもつ行政の行為があり、排他性をもつ行政の行為のなかに、さらに例外的に、出訴期間の制限、とりわけ短期の出訴期間の制限を伴うものがある、と整理すべきなのである。

  さらに、現在のように、行政訴訟について専門的・技術的判断事項が多く残され、それらを的確・迅速に判断できる弁護士が十分には存在していない状況に鑑みれば、出訴期間をおくべき場合でも、一律3ヶ月という短い出訴期間を強制することは、私人に対して酷にすぎ、違法な行政行為が多く流通する結果をも招きかねない。最短6ヶ月程度とすべきである。

 出訴期間についても、行政不服審査法57条に倣って教示の制度をおくべきである。

(2)「早すぎる、遅すぎる」という裁判の拒否をなくせ

 判例によれば、ある行政決定によって、直接に権利・利益を侵害される場合にのみ、それを「処分」と捉えて、争うことができる。段階的な行政決定、たとえば土地区画整理事業などでは、事業計画の段階では、たしかに、建築制限のほかは、直接の権利侵害はないが、事業が進むと(仮)換地処分により権利が制限される。判例は、事業計画については早すぎるとして争わせず(最大判1966・2・23民集20巻2号271頁)、(仮)換地処分の段階では覆水盆に返らずで、実際上はもう遅いとして、後述の事情判決が下されるのみで、実効的な救済はない。これは法治国家と権利救済の実効性の要請に反する。民事訴訟の差止めであれば許される類型については、もっと早期の段階での出訴を認めても差し支えないのではないか。

 その場合に、早期の段階で争えるならば、それをその時点で争わないと、後の具体的処分の段階ではこの計画の違法を主張できなくなるという解釈がありうる。しかし、「できる」からといって「しなければならない」とすれば、かえって酷になる。この場合も、後の処分を争う場合には、先行行為の違法性が承継されて、それを主張することができると解釈できるようにする手当てが必要である。

(3)通達・行政指導も事実上強制的なものは事前排除を

 通達は単なる行政内部行為であり、行政指導は任意的な事実行為であって、ともに国民の権利を直接具体的に形成しないとして、これまで取消訴訟の対象にならないとされてきた。しかし、それに基づく具体的な処分段階では国民は意に反してこれに従わざるをえなかった。たとえば、通達が違法な法令解釈を示している場合でも、それを争えるのは、それに違反して刑事事件として立件された場合であるので、処罰覚悟で争う者がいないと、違法な通達もそのまま現実を支配してしまう。これは法治国家としても見逃せないことであると同時に、救済手段として著しく不備であり、救済を求める者に酷であるから、端的に通達の違法をその段階で争わせる制度を設けるべきである。

 行政指導についても、事実上強制にわたるものについては、紛争が成熟し、その段階で争わせなければ過酷であると見られる場合にかぎり、これらの違法確認、是正を求める訴訟を導入すべきである。

(4)訴訟の対象の拡大を

 取消訴訟などの対象になる行為の定義を緩めるべきではないか。たとえば、都市計画法29条の開発許可を得るには公共施設管理者の同意を要する(都計法32条)が、その不同意は判例上処分でないとされる(最判1995・3・23民集49巻3号1006頁判時1526号81頁)ので、公共施設とは関係がない無茶苦茶な理由で違法に拒否されても、同意を得ることができず、結局は開発許可を得る途がない。これは違憲であろうから、行政訴訟の対象になるのは行政上の決定と拡大するなど、工夫すべきである。

(5)原告適格は民事法と平仄の合うように拡大せよ

  判例は、たとえば原子力発電所の立地に関する許可処分に対して第三者住民が争うことを許容するかどうかに関して、「法律により保護された利益説」を採って、当該処分の根拠となっている行政法規が原告である第三者の利益を個別具体的に保護しているかどうかを詮索しているが、この思考方法は妥当でない。

 法律に直接どのような規定があろうとなかろうと、ある処分の因果関係の結果具体的に苦痛を被る者がいるのであれば、その者に原告適格ありと端的に判断しなければならない。それは、結局のところ、民事の受忍限度を超える者との平仄を満たす類型になる。例えば、「現実の利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者」に原告適格を認めるということが考えられる。

 さらに、当該領域で活動している団体には原告適格を認めるべきである。

(6)管轄は被告庁所在地から原告の所在地へ

 行政訴訟の管轄は、被告庁の所在する地域を管轄する地方裁判所に属することを原則とする現行法は、特に被告が中央官庁の場合原告に多大な負担を課し、当事者の対等性の原則に反するので、原告の住所地を管轄する裁判所に出訴することができることとすべきである。被告のほうは全国に代理人を有するのであるから、過大な負担にはならない。こうして初めて原告は被告と多少とも対等になる。なお、全国どこの地裁でも行政訴訟を担当することが過大な負担であるならば、高等裁判所所在地の地裁などに管轄を移すことも考えられる。

(7)善意解釈・親切釈明の原則

 これらの訴訟要件はもっぱら原告にのみ不利に作用する障害物であるから、仮にその点に誤りがあったとしても、それを救済するしくみが必要である。たとえば、訴えの趣旨を善解して、裁判所が再整理し、出訴期間の制約を被ることなく、適法な訴えとみなしたり、適切な補正を可能としたりするような教示ないし釈明の制度が必要である。そもそも請求の趣旨を、原告が訴え提起時に正確に特定する必要はなく、裁判所が判決時までに当事者の意見を聴いて判断すればよいとすべきである。

3.本案審理の適正化

門前払いを免れても、本案において行政裁量の違法性を原告に立証させるのでは、救済が画餅に帰すので、行政裁量のルールを具体化し、立証責任を行政側に課し、理由・処分の変更に制限を加えるべきである。

(1)行政裁量の統制

 個別実体行政法規には、広範な裁量を伴う不明確な概念が多用されており、いわば実体法への行政権限の白紙委任が広く見られるが、本来は立法により実体法の裁量を具体的に極小化することによって、裁量を統制する営みを行っていくべきである。

 さしあたり行政事件訴訟法の中に、裁量処分の統制手法として、裁量の行使について行政庁が適切な説明責任を果たしているか否かを論理的かつ実証的に裁判所が審査するとともに、その一環として、代替案を検討すべき旨及び費用便益分析手法などの検証可能な科学的手法を活用すべき旨を明記することが妥当である。

 行政裁量をはじめとする行政運用を適正化するために、裁量統制の基準、手続き等を定めることが必要であり、行政手続法を強化すべきである。

  少なくとも、取り消されるのは裁量濫用の場合に限るとする現行行政事件訴訟法30条は、司法審査の範囲を制限する解釈を招くので、廃止すべきである。現実に、判例法では、要件の裁量については事実の根拠をまったく欠く場合、実施の裁量については社会観念上著しく妥当を欠く場合などに限って処分を取り消すことができる旨の著しく原告に負担を加重する基準が存在しており、その弊害はきわめて大きい。

(2)立証責任

 判例では、いわゆる裁量処分の違法性の立証責任は原告にあるとされるが、これは裁量のブラックボックスの違法を原告に探求せよという酷なものであり、行政側は自ら行った裁量権行使の合理性を説明することが容易な地位にある。行政訴訟の立証責任は原則として行政側にあるとし、裁量処分の場合でもそれが合理的な判断過程を経た適法なものであることを被告行政側が立証すべきものとすべきである。

(3)理由・処分の変更

 現在は、係争中に被告が処分理由を変更したり、新たな処分を行って、争われている処分の効力を失わせたりするなどにより、原告に不当な負担を課しているので、このことを制限すべきである。

(4)調査命令制度の創設

 行政決定の違法是正は公益に資するものであるので、裁判所において審理のために必要と認める場合には、行政主体に対して、その費用で必要な調査を命ずることができる調査命令の制度を創設すべきである。

(5)開示命令制度の創設

 これまで行政側の資料の出し渋りが審理の遅延の原因となり、適切な審理の障害となる場合もあった。そこで、日本版ディスカバリー制度を行政訴訟に導入すべく、裁判所が、審理の初期の段階において、審理に必要な関連する情報・資料の一式の提出を行政主体に命ずることができる開示命令の制度を創設すべきである。そして、被告行政側が開示命令に従わない場合には、裁判所はその資料の記載に関する原告の主張を真実と認めることができるものとし、開示命令の実効性を担保すべきである。本来、行政は法に基づき適正に執行されねばならないのであるから、行政執行の適法性が争われていたにも拘らず、私人間の紛争解決のための民事訴訟の攻撃防御と同様、行政におよそ証拠の取捨選択の完全な自由が存在してきた、というこれまでの行政訴訟制度には重大な問題があったのである。民事訴訟と異なる行政訴訟の特質への配慮は本来このような領域でこそ行うべきである。

4.執行力の制限、執行停止の原則化、仮命令など

即時に執行されると、原状回復が困難な不利益処分については、直ちには効力を生じないこととし、また、出訴があれば執行力を停止することとするか、少なくとも暫定的な執行停止により、原状回復が困難な事態の発生を防止すべきである。また、執行された後にその違法性が判明すれば、故意過失の有無を問わずに国家賠償責任を認めるべきである。
 給付の拒否についても暫定的な仮の給付の制度を導入して、権利救済の確保を図るべきである。さらに、仮の差止めを導入する。内閣総理大臣の異議は廃止する。

(1)執行力の制限、執行停止の原則化

  現行法では、不利益処分は裁判所の判決を得ることなく、発給時から当然に効力を生ずることとなっているが、外国人の退去強制、税金の公売処分、行政代執行法に基づく代執行などは、特に緊急の場合を除き、直ちに執行する必要はなく、執行されれば原状回復は困難である。そこで、これらの行政処分の執行力は、緊急に必要な場合を除き、処分後3ヶ月ほどは発生しないものとし、さらに、その期間も、原告からの不服申立て・出訴があれば、原告の申請に基づき執行を原則として停止すべきである。

(2)ちょっと待てとの仮救済

 もし、執行停止原則を採用しないなら、執行停止の申請を審理している間に執行されてしまうので、緊急の場合には、執行停止の要件を厳格に審理することなく、暫定的な期間の執行停止を認めるべきである。

 行政処分の発給を求める仮命令も、前述のように認めるべきであるとともに、たとえば、ホームレスへの生活保護の拒否や、障害者という理由による高校不合格の事案では、生活保護や高校入学をとりあえず1ヶ月認めるといった、暫定的仮命令も制度化すべきである。

(3)誤った自力執行の責任は無過失責任で

 行政が裁判所の判断を経ずに執行したら違法ではあるが、過失はなかったとして、国家賠償も認められないことがある。これは執行を受けた者には過酷であるので、消防法6条3項にならって自力執行は自己責任で行うこととして、無過失賠償責任を認めるべきである。

(4)仮差止めの導入を

 不利益処分が発給される前であっても、処分が行われる蓋然性が高く、それが行われては回復の困難な損害が発生する場合には、事前に仮に差し止めることができる制度を導入すべきである。

(5)内閣総理大臣の異議の廃止を

 執行停止に関する内閣総理大臣の異議の制度は、行政権が司法に過度に介入し、裁判を受ける権利の実効性を著しく減じるものであり、廃止すべきである。なお、異議制度そのものが廃止されても、執行停止に対しては被告行政庁が即時抗告をすることができる(行政事件訴訟法25条6項)ことから、上訴制度は既に整備されており、被告行政庁とまったく独立に内閣総理大臣が固有に異議を申し立てるルートを設けておく必然性は乏しい。

5.救済方法を多様化し、裁判所が最後に判断すること

訴訟類型の判定を誤ったとして門前払いが生ずることを避けるため、救済方法は裁判所が最終的に判決時に判断することとするとともに、多様な救済の要請に応えるように、多様な救済類型を用意する。事情判決は使いやすいように整備するとともに、違法でも取り消さないという特殊性から原告には相応の割増賠償を行う。
 和解は、適法性に関する取引を除き正面から認知する。

(1)救済方法の多様化

 請求の趣旨の特定は原告の責任とする現行法は、当事者訴訟か民事訴訟か無名抗告訴訟かと争いが生ずる訴訟類型の判定が困難な事案では裁判を受ける権利を阻害するので、これは原告が特定するのではなく、訴訟の審理次第で、裁判所が当事者の意見を聞き、その意に反しない範囲で、原告にもっとも有利なものとするように決めるとすべきである。この意味で、訴訟類型としては行政決定の違法の是正訴訟一つに統合し、判決時に事案にふさわしい判決を行うように救済の類型を多様化すべきである。そして、救済方法は次のように幅広いものとすべきである。

@行政決定の違法を確認し、違法行為を除去若しくは撤廃し、経済的・社会的に
 可能であるかぎりにおいて原状回復など、是正措置を講ずべきことを命ずる救済

A行政主体に対して原告のために、または第三者に対して特定の行政決定を行う
 ことを命ずる救済

B行政主体に対して裁判所の法的見解を尊重して行政決定のやり直しを行うことを
 命ずる救済

C申請に対する行政決定を行わないことの違法を確認する救済

D行政決定に対する是正訴訟が処分の職権取消、期間の経過などの理由により訴え
 の利益を喪失した場合において、その違法を宣言する救済

E 違法な行政決定が行われないようにその差止めを命ずる救済

Fその他紛争解決に適切な形式の救済

(2)事情判決の適正化

 事情判決については中間判決を下し、被告に適切な違法是正措置なり賠償を行わせるほか、賠償額を割増する規定の整備が必要である。

(3)和解

 行政訴訟においては、これまで和解が認められていないが、実際には和解に近いことが行われていることでもあり、適法性の判断を金銭で取引することにつながる和解を禁じるとともに、それ以外については適切な手続きのもとで和解を正面から認めるべきである。


V その他の重要な論点

メモ: 権利救済訴訟のほか、行政の適法性の確保を図る訴訟を充実させる。行政との対等性を確保するため、弁護士費用敗訴者負担を片面的なものとし、印紙代を大幅軽減する。さらに、公益に寄与した訴訟の原告には、弁護士費用等の請求に当たってその分を配慮する。









1.行政の適法性確保のための訴訟−納税者訴訟、計画統制訴訟、団体訴訟

(1)納税者訴訟−国レベルの財政上の違法是正訴訟(国民訴訟)の導入を

 地方自治法では、自治体の財務会計上の違法について、住民であれば誰でも争い、違法支出を是正させるための住民訴訟が認められているが、国(特殊法人、独立行政法人)についても、違法な財政支出について同様の機能を果たすいわゆる納税者訴訟を設ける必要がある。

  この場合には、裁判所の非専門性、訴訟の洪水の防止の観点から、会計検査院においてその違法性と是正策の審査を先行させ、その適法性を裁判所で審理するしくみとすべきである。現在、会計検査院は、会計経理の取り扱いに関して、利害関係人から審査の要求があったときは審査のうえ、是正に関する判定を主務官庁等に通知しなければならない(会計検査院法35)こととされているが、「利害関係人」の範囲が狭いこともあり、この制度はほとんど活用されていない。地方自治法の住民訴訟制度では、まず住民であれば誰でも監査委員に対して、財務会計上の違法支出等についての監査請求をすることができ、その結果に不服等があるときには、是正や損害賠償を求める訴訟を提起できることとされている(地方自治法242条、242条の2)。国においても、会計検査院が、地方自治体の監査委員と同様の役割を担うよう、その業務範囲を拡大する立法上の措置を採るべきである。この場合、会計検査院が憲法上の機関であることから、会計検査院に対して新たに訴訟の前提となる監査手続きという役割を担わせることができるか、また会計検査に加えて客観訴訟の形態で国民訴訟を創設することができるか、という2つの論点がありうるが、この仕組みは現行の会計検査を否定ないし修正するものではなく、付加的なものであり、また憲法が訴訟による会計経理に関する統制を否定しているとは解せないことから、問題がないのみならず、むしろ憲法の趣旨をさらに進めるものであると同時に、地方自治体との間での平仄も確保できる適切な措置であると考えられる。

国民負担を増大させる結果となる行為について、一定の場合に執行に責任を持った個人に責任を負わせるほうが行政改革の観点からも妥当といえる場合がある。

 その場合に、2002年の住民訴訟制度改正で行われたような、機関で応訴するしくみは、個人の緊張感を失わせる結果を招き、妥当でない。一方、個人の応訴を前提としたとしても、賠償額があまりに巨額にならないよう、たとえば、在任中の年収などを基準として、一定の現実的な歯止めを設けるべきである。

 さらに、住民訴訟においては、違法行為が行われてから1年を経て気がつくと、正当事由があるかどうかが問題になり、出訴できる期間は短すぎる(地方自治法242条2項但し書き)ので、気づいてから、6ヶ月ないし1年に延長すべきである。

(2)計画統制訴訟

 国民の権利利益の救済を図るとともに、違法な行政活動を是正するための手段として、行政訴訟制度を改革する必要がある。

 権利侵害を直接に受けたというには熟度が低くとも、一定の要件を満たす場合には、端的に計画そのものや、環境に関する諸手続きについての司法審査を求めうる訴訟を端的に認める必要がある。

(3)団体訴訟

現代において団体が果たす役割の重要性に鑑み、一定の公益団体に訴権を与える団体訴訟の制度を導入することも考えられる。

2.原告の負担軽減と当事者の経済的負担の公平化

(1)印紙代

 国民の行政訴訟に関する経済的負担の軽減を図るべきである。

 たとえば、訴状に添付しなければならない印紙代は、現在1億円の課税処分の取消訴訟で、1審が417600円、高裁が50%増し、最高裁が倍であるので、結局は188万弱かかる。これは出訴を事実上阻害する不当に高額な設定である。国家賠償訴訟でも同じであり、民事訴訟との区別は困難なので、およそ国または地方公共団体その他公共団体に対する訴えは、行政訴訟と民事訴訟とを問わず、高額にならない一定額の印紙代となるよう統一すべきである。

  なお、課税処分の場合は本来は課税庁の方から出訴すべきであるが、そうすると、課税庁が印紙代を添付しなければならないのであって、納税者の方から出訴しなければならないという行政優位の制度がおかれたというだけで、印紙代まで納税者に負担させる理由はないのである。

(2)片面的敗訴者負担制度

 弁護士費用も原告には大きな負担になっている。目下弁護士費用の敗訴者負担原則の導入が行われようとしているが、これでは行政と国民の対等性は大きく阻害され、行政訴訟の提起は激減するであろう。原告が勝訴したときは行政主体に合理的な範囲で求償できるが、敗訴したときは現行制度同様、行政の側で要した弁護士費用を支払う必要はないという片面的敗訴者負担原則により、両当事者の実質的公平を確保すべきである。これによったとしても、現行の制度よりも原告敗訴の場合の負担が小さくなるわけではないので、乱訴の助長などにはつながらないと思われる。

(3)公益寄与分を勝訴原告に配慮

 
原告が、その訴訟提起により、たとえば処分や通達の違法を認めさせ、公益に寄与した場合には、行政庁に対して弁護士費用に加えて、その寄与分に配慮し、一定の基準の下に請求できるようにすべきである。多くの者がフリーライダーとして受益するなど、社会の富の増大に貢献したからである。被告は裁判所で違法と判断されたことが一般性を持つと波及効果が大きいと、断固抗争するので、こうした制度があって初めて両当事者が対等になるのである。

3.裁判所改革

メモ: 裁判所に規模の経済を確保するため、事件数の少ない地裁から高裁所在地の地裁へと事件を集中させる、代わりに原告の出訴の負担を補填する制度も考慮に値する。
  裁決を行う行政機関の中立性を確保すべきである。


裁判所の専門性の欠如及び行政への過度の遠慮が行政訴訟制度の機能不全の一要因として指摘されており、行政訴訟改革を実現するためには、裁判所自身の改革が必要である。

現在行政訴訟は、すべての地方裁判所で、通常事件と同様に処理されているが、一定の専門的知識を発揮できる人材を集中的に投入できるしくみが必要である。行政訴訟について専門的人材を投入するとともに、業務の規模の経済を発揮できるように、たとえば高等裁判所の所在地などを中心に専門的組織を設置すべきである。その場合、国民に遠方での対応をさせることでかえって不便を強いることになるので、書面による主張と証拠の整理を先行させ、テレビ・電話審理、巡回裁判を行うべきである。原告と代理人が出廷しなければならない場合には、この改革は裁判所の効率化のためであるから、その出廷費用を補填すべきである。

 国税不服審判所、公正取引委員会審判部などの中立性には疑問がないではない。独立性の強い「行政審判庁」を設置して準司法的機能を強化するとともに、司法裁判所との分担関係についての見直しが必要である。

4.その