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行政訴訟改革パブコメのポイント

環境行政改革フォーラム有志

 

【今回のパブコメの重要性と背景】

 今、21世紀の環境行政訴訟を大きく左右する議論が進行しています。

これまで環境行政訴訟は全く機能しておりませんでした。処分性がない、原告適格がないなどという理由で訴訟が却下されるために、環境法律家も行政訴訟の提起自体を諦めがちなのが現状です。これは、行政事件訴訟法が現代型訴訟である環境行政訴訟に対応していなかったためです。このままでは、環境保全のために司法手続を利用することができません。

現在、行政事件訴訟法の40年ぶりの大改正の機運が高まっています。この機会を逃せば「次」は恐らくあと数十年間はありません。しかも、行政訴訟改革は、被告となる全省庁が歓迎しないテーマであり、既に改革縮小の動きが急速に強まっています。具体的には、このパブコメの「第2の3」まで(通称「第1トラック」)の小規模な改革にとどめようとする動きがあります。これでは、行政訴訟改革は小手先の手直しに過ぎず、環境行政訴訟はこれまでと同様に全く機能しないことになります。

既に政治では、問題意識のある与野党の国会議員の方々から「行政訴訟改革を行政に委ねることには限界がある、最終的には議員立法も視野に入れて立法府において決断する」との心強い発言がなされているところですが、行政訴訟検討会は、小手先の手直しで済ませるか、抜本的改革をするかの重大な岐路に差し掛かっています。

 

しかし、今回のパブコメはかなり難解です。自分の生活を抱え日々を生きている国民がこの難解な文章を熟読して理解し、コメントをするのは容易なことではありません。そこで、主要な論点について簡単なポイントをごく簡単に説明するとともに、とりわけ環境行政訴訟に関連する部分について、パブコメをなさる際の参考にして頂けるような情報を提供したいと考え、簡単なメモを作成致しました。

 

行政訴訟検討会では、座長をはじめ抜本的改革が不可欠だと考える委員が多数おられますが、今後の改革のよりどころとなる国民の声を検討会に是非たくさん届けて頂きたいと思います。行政訴訟で最も機能していないのは環境行政訴訟であり、行政訴訟改革の一番切実な利害関係者は、環境保全活動に取り組む我々なのです。

 

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/pc/0306comment.html

期限は8月11日です。

 

【留意点】

関心のある部分についての意見だけで結構です。

ご自分の言葉で出来る限り具体例を挙げながら書いてみてください。
1.総論

円形吹き出し: 裁判を受ける権利の保障を! 円形吹き出し: 諸外国の水準に!

 

 


小手先の改革                         抜本的改革

現行法の手直し  ではなく 大改正            

小規模改正                             新法制定

 

 「主な検討事項」の第1から第2の3までの論点(通称「第1トラック」)までの小規模な改革で終わらせようという動きがありますが、本当に重要な論点(例えば訴訟対象、原告適格、義務づけ訴訟など)は第2の4以降(通称「第2トラック」)にあります。もし今回の改革が第1トラックだけで終わってしまうとすれば、それは小手先の改革に過ぎず、行政訴訟改革は失敗に終わったといわざるを得ません。

わが国の行政訴訟制度は、欧米先進諸外国の水準に遠く及ばない状態です。行政訴訟制度の機能不全は、憲法32条の裁判を受ける権利が国民に保障されていないことを意味しているのです。

 

円形吹き出し: 門前払い訴訟の廃絶を!

 


2.各論

 

@訴訟対象(第2−5(2)) 

 

行政計画、行政立法、行政指導、事実行為を行政訴訟の対象に

訴訟類型はできるだけ一本化を

 

 これまでの行政訴訟では原則としていわゆる行政処分(許認可、課税処分など)を争うことしか認められていませんでした。多くの訴訟が「行政訴訟の対象には出来ない」として門前払いされてきました。しかし、現在では行政処分以外の様々な行政活動が様々な分野で行われています。行政訴訟の対象を拡大し(都市計画決定、環境基準など)行政の誤りを幅広く直す行政訴訟に変えなければなりません。行政訴訟対象の拡大ということは、例えば計画段階などより早期の時点での司法判断を行うことになり、抽象的で司法判断が可能なのかという批判もあります。しかし、例えば、有名な小田急判決でも、都市計画決定後の事業認可の段階でしか訴訟提起が認められませんでしたが、違法と判断された中心は都市計画決定でした。都市計画決定段階での訴訟提起を認めないことから、後述の執行不停止原則とあいまって、高架化の工事がどんどん進められた後で判決がなされることになったのです。裁判所が、既成事実が積み重なった工事を止める判断をすることにはかなり勇気がいるのです。もちろんすべての行政活動を訴訟対象にすることは適切ではありませんが、「行政処分だけでそれ以外はだめ!」というのではなく、行政処分以外にも個別事案に応じて、例えば紛争が成熟していて司法判断が可能であれば、行政訴訟の対象とすべきであると考えられます。日本で処分性がないと却下された多数の事案についても、先進諸外国では訴訟対象とされています。

 なお、訴訟対象ごとに訴訟類型を設けることも考えられますが、どの訴訟類型を選択すればいいのかが原告にとって常に明らかであるとは限りません(柔軟な訴えの変更を認めることにより選択の負担を軽減することは出来ますが)。そこで、訴訟類型を一本化することが望ましいと考えます。

 

お勧め:A案(広く行政決定を行政訴訟の対象とし、原則として民事訴訟も認め、出訴期間をつけない)

 

 

A原告適格(第2−6(1)) 

 

原告適格の拡大を

 

 これまでの行政訴訟では行政処分の根拠法規が個別具体的に保護している利益の侵害がない限り、原告適格(行政訴訟を提起する資格)が認められず、門前払いがなされてきました。例えば、パチンコ店の営業許可や林地開発許可については周辺住民が争うことはできません。これまで、多くの環境行政訴訟において原告適格が争われ、ごく限られた例外を除いて、ことごとく門前払いがなされてきました。環境行政訴訟における最大の難関がこの原告適格でした。そもそも環境的利益は広く薄く拡散しているのが通常であり、そもそも環境法が個人の個別具体的な利益を明確に保護しているということはなかなかいいにくいのです。日本で処分性がないと却下された多数の事案についても、先進諸外国では原告適格があるとされています。

そこで、現実問題として何らかの利益を侵害されて救済が必要な人に原告適格を認める必要があります。原告適格を認めても違法と判断されるわけではありません。行政活動が違法か否かを判断する土俵に乗ったということに過ぎません。違法判断をするかどうかの入口論争に膨大な司法リソースを費やしてきたこれまでの制度は適切ではありません。

 

お勧め:A案(現実の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者)

 

 

B団体訴訟(第2−6(3)) 

 

団体訴訟の導入を

 

 これまで、団体が行政訴訟を起こすことは許されませんでした。しかし、例えば、マンション建設に反対する地元住民団体にも原告適格を認めてよいのではないでしょうか。

 また、環境保全や消費者保護の分野では、利益が広く薄く国民に帰属するため、特に行政処分がなされる前の段階の行政活動を対象とする場合には、原告適格を認めることが難しい場合も少なくないのですが、一定の実績ある信頼できる環境保護団体には公益を守るための行政訴訟の原告適格を認めてよいのではないでしょうか。環境保護団体の訴権を認めない先進諸国はありません

 環境保護団体に司法アクセスの手段である訴権を与えることは、その活動能力を高め、活動範囲を広げることになります。

 

お勧め:A案+B案(原告適格を有する人の作る団体と環境保全など一定の公益活動を行う団体の両方に原告適格を求める考え方)

 

 

C義務づけ訴訟・差止訴訟・確認訴訟(第2−4)

 

義務づけ訴訟・差止訴訟・確認訴訟の導入を

 

 これまでは、既になされた行政決定が有効であることを前提にこれを取り消すという取消訴訟が大原則でそれ以外の訴訟はなかなか使うことが出来ませんでした。このような制度をとっている先進国は日本だけです。そこで、なされていない行政決定(違法建築物の除却命令など)をすることを求めたり(義務づけ訴訟)、なされる蓋然性の高い行政決定(銀行税の課税処分など)を差し止めたり(差止訴訟)、なされている行政決定(行政指導など)の違法確認を求める訴訟(確認訴訟)ができるようにする必要があります。

 国立マンション行政訴訟第一審判決は、違法建築物の是正命令権限の不行使を違法と判断したものですが、これは「無名抗告訴訟」と呼ばれ、原則として許されず、極めて厳格な要件のもとに例外的に許される訴訟類型でしたが、これを普通にできる訴訟制度にしなければなりません。

 

お勧め:(1)ア=C案(行政に対する申請権がある場合もない場合も認める)

ウ=C案(一義的明白性、緊急性及び補充性がなくても認める)

エ=A案(行政に対する判決の執行について民事訴訟と同様に考える)

    (2)ウ=E案(一義的明白性、緊急性及び補充性がなくても認める)

 

 

D仮の救済制度(第2−3)

 

執行停止原則の採用を                        

仮命令・仮差止等の制度の導入を

 

 これまで行政訴訟を提起しても行政活動を止めることが出来ませんでした。例えば、北海道の二風谷ダムは判決を出す頃には既に完成してしまっており、違法ではあるが壊すわけには行かないということで請求が棄却されたこともありました(事情判決)。違法だとする判決が出されても、既に環境が破壊されてしまった環境を回復することは出来ません。特に環境保全の分野では、司法判断が出るまでは既成事実が作られないようにする必要があります。

そこで、ドイツにおけるように、行政訴訟を提起すれば、判決までは行政活動を原則として停止する制度を採用すべきです。

 また、これまでは原則として取消訴訟しか認められなかったため、仮に差し止めたり、仮に命令をしたりすることが出来ませんでした。執行停止以外の仮の救済の制度を整備する必要があります。

 

 

E弁護士費用(第2−8(2)

 

片面的敗訴者負担制度の導入を

 

 行政訴訟は行政活動が違法であるか否かを争うものです。本来行政活動は適法でなければならず、それを是正するための費用を原告国民に負担させるのは不当です。また、原告が勝訴した場合には行政活動の違法が是正されたことになり、公益にも資することになります。他方で、行政訴訟の敗訴率は85〜90%といわれ、原告敗訴の場合に相手方の弁護士費用を負担させるとすれば、提訴への萎縮効果は極めて大きく、妥当ではありません。そこで、原告勝訴の場合にのみ被告行政側に弁護士費用を負担させる片面的敗訴者負担制度を導入すべきです。オランダでは明文で行政訴訟の片面的敗訴者負担制度が認められています。

 アメリカでは、環境保護団体が判決や和解により、多いときには1件で数千万円の弁護士費用を取得して活動資金に宛てているといわれます。わが国の環境保護団体の発展にとっても重要な制度改革と言えるでしょう。

 

お勧め:B案(弁護士費用の片面的敗訴者負担制度)

 

 

以上のような制度は、先進諸外国において普通に取られているものです。台湾では日本とほぼ同じ行政訴訟制度が採用されていましたが、日本の制度よりはるかにすばらしい行政訴訟制度に改革されました。

 

環境保全を願う者の最後の手段としての行政訴訟改革を是非実現させたいと思います。一言でも結構ですので、是非、1件でも多く、抜本的改革を求める声を検討会事務局に届けてください。行動するのは「今」です!

 

 

【参考サイト】

行政訴訟検討会http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/05gyouseisosyou.html

国民と行政の関係を考える若手の会http://www.kokumin-gyosei.jp/

環境行政改革フォーラムhttp://www.eforum.jp/

日本弁護士連合会http://www.nichibenren.or.jp/

 (なお、近日中に日弁連意見がHPにアップされる予定です。)