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平成12年7月7日
今後の自動車排ガス対策に関する意見 |
環境行政改革フォーラム幹事 鷹取 敦 takatori@eri.co.jp |
従来の自動車公害対策は、自動車交通の利用者、事業者への負担を出来るだけ増加させないという制約の中で検討されてきたため、多くの重要な対策が実現されず、実現されても効果が期待できなかった。
「自動車NOx総量削減方策検討会報告書」(以後「報告書」)にも「汚染者負担の原則に立って」と述べられているとおり、また、東京都も明快に述べているように、自動車利用者や自動車交通需要を増加させる事業・計画が大気汚染、騒音問題における「加害者」であるとの立場に立ち、積極的に「汚染者負担」を求めていくべきである。
「報告書」には、NOx法やNOx総量削減計画策定時と同様に、網羅的に対策を列挙してあるものの、従来から行われている単体規制、車種規制以外の対策については、実効性、実行性を担保するための具体的方法が示されていないものが多い。
一方で「(課題)」として掲げてある項目は、対策の実現のために検討の必要な課題よりも、対策実施の困難な理由、あるいは対策効果を低下させる猶予措置の必要性が掲げてあるものが見受けられる。
「早急に実行性ある施策の具体化を求める」(「はじめに」より)、「対策の充実・強化が必要である」(P.20)と、従来の対策の問題点を反省はしているものの、これでは従来行ってきた以上の個別の対策の実現による環境の改善は期待できない。
「報告書」には車種規制単独での対策効果が示されていない。NOx法制定当時から「単体規制」と合わせた効果の数値しか公表されてこなかったが、実際にはその効果をが小さいことは把握されていたはずである。
効果が少ない場合でも、現状の深刻な大気汚染を改善するためには実施しなければならない対策は多いものと考える。しかし、効果が少ないこと自体を公表しないことは、結果的に現状の深刻さや、さらなる対策の必要性を覆い隠すことにもなり、現在に至るまで改善されていないことの一因となっているのではないか。
費用対効果の悪い、あるいは実効性・実行性の低い対策メニューを数多く掲げることよりも、大きな効果の期待できる対策を重点的に実施することが重要であると考える。
千葉県はNOx排出量の目標量を達成しているにも関らず、千葉市を中心とする都市域において大気汚染濃度を達成できていない。これは都道府県単位のような広域におけるNOx排出削減を目標とすることの問題もその要因の1つであると考えられる。
排出量をNOx削減の目標とする場合には、都市中心部、幹線道路沿道、東京都の場合は特別区全体のように現に環境基準を超えている地域における自動車NOx排出量を対象として、進捗管理・評価を行うべきである。
大気汚染状況の改善がみられないことは、本検討会でNOx法進捗状況の検討を行うまでもなく分かっていたはずである。それにもかかわらず、目標年次直前に至るまでこのような検討を行なわず、有効な改善策を実施して来なかったことも現状に至る一因であると考える。
今後は、「報告書」にも記述されているように定量的な効果把握の可能な対策を立案し、実施においてはこれらの対策が期待した効果が上がっているかどうかを定量的に評価し、随時対策の見直しを行うことが必要である。
従来から指摘されてきたことではあるが、NOx排出規制値やシミュレーションに使用されている排出係数は実走行時の実態を反映していないため、NOx排出量による評価と大気中濃度の実測値の評価には乖離が生ずる。
実態と異なる規制値モードや、考慮した場合でも小数の自動車に対するシャーシダイナモ上における測定値ではなく、実際に道路上を走行する自動車から排出される排ガスの実測を行うべきである。
さらにNOx排出状況は個々の自動車の車齢、整備状況、走行状態によって異なるのであるから、全ての自動車に対して実走行時の排出の記録装置の搭載を義務づけ、計測・記録することによって実態把握や、排出に実態に応じた規制、負担を行う制度によって、実質的な削減のインセンティブとするべきである。
ディーゼル車とガソリン車で規制基準に差があるのは「負担の公平性」の観点からも不公平であり、また削減効果の実効性の確保の点からも問題がある。ディーゼル車・ガソリン車と区別することなく同一の規制基準を設けるべきである。
使用過程車に対する猶予が大きいため効果が表れにくい。また、使用過程車を買い替えることを求めるだけの規制では使用者の負担が大きく廃棄物も大量に排出されることになるため、猶予期間を大幅に短縮するとともに、排ガス低減装置の装着も含めて、DPF等の装着による使用過程車の環境負荷の低減も合わせて義務づけるべきである。
「自主」管理では大気汚染削減効果は期待できない。
自動車に装着した排ガスセンサにより自動車排ガスの実際の排出量を記録し、車検時等に検査することによって、自動車排出大気汚染排出量に対する賦課金を課すような措置を含めることによって実効性を確保すべきである。(2−1と同じ)
また、物流事業者の排出分については、荷主に対しても排出量に対する負担を課すことによって物流事業者の大気汚染削減努力のインセンティブとする必要がある。
これから販売される自動車に対する規制や総量の削減を義務づけるだけでなく、既に販売されている自動車にではないか。なお、評価は走行中の排ガスの実測値によって行うべきである。
流入規制、ロードプライシング等、交通量の抑制対策は、個別の大気汚染物質だけでなく、自動車排ガス・道路交通騒音、交通事故対策としても効果があるので、従来のように検討はしたものの、実現が難しいため先送りということのないように願いたい。
また、新たな自動車交通需要を発生する開発や計画については、広域的な環境負荷の増加観点からは、なんら制約を受けてこなかった。長期的にはこれらの交通需要の増加が、首都圏や近畿圏をはじめとする大都市の自動車公害の根本的な要因である。
現行の環境影響評価制度においては、単独の事業の環境影響が現状と比して「軽微」であることから事業の実施を認めてきたが、これからは環境汚染の実態が深刻である地域においては、自動車交通の発生集中を減少させる方向に転換するべきである。
また、自動車公害防止計画、環境基本計画における環境配慮だけでは十分ではなく、総合計画、都市計画においても自動車交通の抑制を図らなければ、自動車交通公害、交通事故等の自動車による社会的負担の抜本的な低減は望めない。
局地対策を行う場合には、高濃度が実測されている自動車排ガス局の周辺地域だけに対して行ったのでは、汚染の実態を覆い隠すだけの効果しかない。
自動車の交通実態、土地利用を考慮し、またシミュレーションを行うことによって同様に汚染されていると考えられる地域全てに対して局地汚染を実施するべきである。
また、大気汚染濃度は1年を通じて一様ではなく刻々と変化しており、変化の状況は地域によっても大きく異なる。特に大気汚染濃度の高い路線・時間帯においては、緊急避難的な交通規制、交通誘導を行うことによって改善を図る必要がある。(参考資料:別紙大気汚染濃度図)
巨額の「対策費用」を使っている道路建設については、その対策効果も明確ではなく、各地で新たな自動車公害に関わる紛争の原因ともなっているため、自動車公害対策として位置付けるべきかどうか、これまでの事例に対する再評価(効果の検討)が必要である。
道路建設は一時的には交通流の円滑化によって環境が改善されることはあるが、長期的には交通容量に余裕が出来た分だけ潜在的な自動車交通需要を呼び込み、環境の悪化に繋がるおそれがある。
添付資料
板橋区 環境情報表示装置「かんきょうくん」(1996年6月設置)より
大気環境リアルタイムシミュレーションシステム表示画面の例
((株)環境総合研究所(東京都品川区)開発)
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