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新潟日報 2002年1月25日朝刊

永田町に言いたい(2)
族議員の「薬」生かせ/国民の声、政策に反映を

環境総合研究所所長
青山 貞一

―政策提言などで政治家に接する機会が多いが、永田町の現状をどう見るか。

青山
 内閣が提出する法案の大部分は(官僚がつくった)政府提出法案だ。国会に提出する前に与党の政策決定機関の審議を経ているとはいえ、多くの法案はさほど吟味されることなく素通りしているのが現状だ。

 「国会審議を円滑にするために、与党は事前に政府提出法案に所属議員の考えを反映させている。これは政治主導といえる」
(自民党・稲葉大和衆議院議員)

青山
 政治主導の本来の意味は、議会が立法行為を一手に握って、行政府をコントロールすることだ。立法プロセスもできるだけオープンにして、幅広く国民から声を聞く、ということではないか。政治主導は立法府主導ということだ。

―議員立法を増やすべきだと。

青山
 その通りなのだが、議員提出法案も官僚がコントロールしている現実がある。法案の骨格は議員の発案でできていても、(具体的な規制値など)肝心の部分は官僚が省令などで決めている。
 日本の法律は、非常に難解に書かれている。条文が難解で解釈によって意味が変わるため、官僚が裁量を振るう余地が生まれる。官僚の権力の源泉ともなっている。

―与党議員は部会などの場で、政府の法案づくりに直接関与する機会が多いと主張するが。

青山
 自民党議員の中には官僚以上の政策通がいることは確かだ。しかし、自民党政権が長期間続いているため、こうした議員は特定の利権と結びつき族議員化しがちだ。
 政権交代がないから、特定分野の利益代表である議員が政府法案づくりに関与し続ける。特定分野の利益しか考えない議員は野党にもいる。こうした族議員が数多くいる限り、いつまでたっても国民全般の意志が政策に反映されない。

 「政権交代がないことが立法府主導を拒んでいることは間違いない。野党も議員立法を数多く手がけているが、数で劣るので日の目を見ない」
(民主党・筒井信隆衆議院議員)

―国民の声は国会審議に届きにくい。

青山
 米国の議会では公聴会が頻繁に開かれる。しかし、日本は採決の直前に儀礼的に開かれるに過ぎない。専門家の意見を聞くなら、審議開始前でなければ審議に反映されるはずがない。
 英国議会は、審議の過程で法案に与野党の意見を細かい点まで反映させる。日本の国会審議は形骸化しているが、もっと審議の中で議員なり国民の声が反映されるようにしないと。

―今、どんな政治家像が求められているのか。

青山
 与党には族議員が多く、野党議員は専門知識に欠ける人が多いと感じる。ただ、特定分野との結びつきが強いが専門知識がある議員は、いわば毒にも薬にもなる。国民は、こうした議員の「薬」の部分を生かすようにすべきだ。与野党を問わず国民の側から働きかけて、「使える」政治家を育てる必要があるのではないか。

「特定業界などとの癒着はよくないが、専門知識を持って議員立法につなげることは必要。いい族議員、悪い族議員というのがあるのではないか」
(自民・田中直紀参議院議員)

青山
 特定の支持層が背景にいる政治家にしてみると、(選挙を考えれば)国民各層の声を聞くというのは怖い面もあるのだろう。しかし、自分に批判的な層こそ、真に有用な情報をもたらすともいえる。そういう声を聞く度量がほしい。


<顔写真入り>

あおやま・ていいち
1946年、愛知県生まれ。政府系シンクタンクを経て86年、環境総合研究所を設立。
政府・自治体の政策立案、議員立法に携わる。
著書に「新・台所からの地球環境」他。


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