環境行政改革フォーラムが発足し、2009年で早17年となった。 私が環境行政改革フォーラムをつくるきっかけとなったのは、現在62際になる私が27歳のころのことだ。当時、仕事でよく米国に現地調査などででかけていた。あるとき、米国にはアドボカシーと言って社会・経済・環境的な弱者をまちづくりの専門家や弁護士が支援する活動があることを知った。サンフランシスコにもロスにも、ニューヨークにもアドボカシー団体があった。 私は日本でもそのようなNPOをつくれればと思い、その後、当初はひとりで、後には次第にまわりにいる研究者、専門家、活動家、弁護士らとともに、日本で環境分野のアドボカシー(Environmental Advocacy)もどきの活動を行ってきた。 その組織的な拠点のひとつが環境総合研究所であり、もうひとつが当初、日本環境プランナーズ会議、現在の環境行政改革フォーラムである。当然のこととして、日本でこの種の活動をするのは容易ではない。日本ではなかなかドネーション(寄付)が集まらないから、アドボカシー活動は、実質的にボランティアとならざるを得ない。しかし、専門家や弁護士が常時、ボランティアというわけにはゆかない。結果的に、私たちは大学教授、コンサルタント、弁護士などの本業をもちつつ、その合間で環境アドボカシー活動をせざるをえない。 ところで、2009年7月18日から20日、環境行政改革フォーラムの青山、池田、坂本、鷹取の4名が東京から車で静岡県、愛知県で環境問題に必死に取り組んでいる住民団体と意見交換する目的で「田子の浦(静岡県)」、「静岡空港(静岡県)」、「設楽ダム(愛知県)」、「トヨタ走行コース(愛知県)」、「豊橋市東端の産廃銀座(愛知県)」に環境アドボカシーででかけた。 いずれも、国、県、大企業などによる理不尽な自然破壊(ムダな開発)、や高濃度の汚染物質を含む浚渫土砂を不法投棄している現場である。現場には、歯を食いしばってがんばっている住民団体がいた。彼らに共通することは、同じ地域に住んでいる住民からいじめや嫌がらせにあい、暴言などを浴びせられていることだ。 世界第二位の経済大国と言われながら、日本は到底、民主主義国家でもなければ環境優先国でもない。その大きな理由は、日本ではフランスや米国などのように、国民は一度も市民革命を経験しておらず、およそ独立した民主主義の国ではないことにある。政権交代が現実のものになろうとしている現在でも、土建・官僚国家である。その意味では、日本の津々浦々は今なお異常な病理状態にあるといえる。 以下、今回でかけた静岡県・愛知県への環境アドボカシーの一端を報告しよう。 ■ダイオキシン類まみれのヘドロを浚渫し海浜に不法投棄 (静岡県富士市田子の浦) 静岡県富士市の田子の浦では、数十年にわたり地場産業である100社を越す製紙業が垂れ流す膨大なダイオキシン類を含むヘドロを国、静岡県が定期的に浚渫し、万葉集にも出てくる田子の浦の海浜に何100mにもわたり、高く積み上げている。 周知のように汚染された浚渫土砂は、廃棄物処理法に言う産廃に準ずる扱いとなっている。となれば、数100から数1000ピコグラムのダイオキシン類を含む浚渫土砂やヘドロを、もともと日本を代表する歴史ある海浜に野積みにすることは、まさに国、県が永年、不法投棄を繰り返して来たことに他ならない。 県などの行政は不法投棄に類する浚渫土砂の上に表土を覆土し、公園にしようとしている。それらを永年にわたり問題視してきた地域の住民団体は、何と行政の意向を受けた他の住民団体から嫌がらせを受け続けているという。 (高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の前で「証拠」を撮影する青山) (高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の前で、坂本弁護士) (フォーラムメンバーに説明する地元住民団体) (高濃度汚染物質を含む浚渫土砂が不法投棄されている田子の浦海岸を見るフォーラムメンバー) (高濃度汚染物質を含む浚渫土砂が不法投棄されている田子の浦海岸を見るフォーラムメンバー) (デジタルハイビジョンカメラで「証拠」を撮影する青山) (高濃度汚染物質を含む浚渫土砂の粒径分別施設) (田子の浦港の突端にて) (浚渫土砂の上につくられた公園) (住民団体と議論する坂本博之弁護士、ゴミ弁連事務局長) ■乗降客下方修正を繰り返す富士山静岡空港 (静岡県牧之原市・島田市) 当初、年間160万人もの乗降客があると予測した静岡県は、2009年6月にやっとのことで開港にこぎ着けたが、現実にはどうみても乗降客数は、50〜60万人が精一杯。それもJALやANAに静岡県が乗降客数を保証する、すなわち一定の乗降客に満たない場合には静岡県が金銭的な負担するという。 静岡県で永年、静岡空港、第二東名はじめ、はこもの土建を推進してきた旧自治省官僚出身の石川知事は開港まえに辞任した。理由は、滑走路延長線上にある建設反対派住民団体の立木トラストの一部が航空法の規制領域に引っかかり、結果的に開港が半年遅れ、その間、巨額の対策費がかかったことの責任をとったとされている。しかし、その実、どうもそれだけではないようだ。 静岡空港建設問題では、私たち環境行政改革フォーラムの仲間が、石川知事に徹底抗議し、県庁前で焼身自殺をしている。それより前、私は国会議員と一緒に知事に面会し、空港開発に絡む土地収用法の強制収容に抗議に言った。だが石川知事からはいきなり「あなた方は今頃何しに来たのか?」と言われる始末だった。茶畑を根こそぎ破壊し、オオタカなど猛禽類の営巣地をなぎ倒し巨額を投じてこんなムダな空港をつくったことは、おそらく孫子の代まで語りぐさになるだろう。 (大幅に遅れて開港した富士山静岡空港) (当初予測の1/3から1/5となっている静岡空港では、JAL、ANAなどに乗降客保証をしているという) (閑散とする静岡空港のターミナルビル) (地元住民の夕涼み場所となっている空港のあずまや) (フォーラムメンバーに説明する島田市在住の元市議津田さん) (これが石川静岡県知事を辞任に追い込んだ立木) ■設楽ダム(愛知県) 愛知県では設楽ダムの予定地にも案内された。ここは2千億円超の予算で巨大なダムが計画されているが、利水、治水いずれから見てもムダなダムだ。多目的ダムというのがあるが、まさに設楽ダムは無目的ダムである。これは環境行政改革フォーラムの市野会員が名付けたものである。 私たちの環境総合研究所の保養所がある北軽井沢から30分ほど北に行ったところに国予算だけで4600億円を投入し開発が進められている巨大ダム、八ッ場ダム事業がある。 設楽ダム流域を下流から最上流まで車で走り要所要所で車を降り、市野会員の説明を聞いたが、設楽ダム流域の地形や自然は、八ッ場ダムが予定されている吾妻渓谷に非常によく似ている。八ッ場ダム事業は本体工事を残し、道路、橋梁、トンネル、鉄道の軌道などをほぼ作り終えているが、設楽ダムはまったく手つかずだ。政権交代で民主党は八ッ場ダムと川辺川ダムは中止すると政権公約しているが、ぜひとも設楽ダムも中止すべきだ。それにより2000億円超の国費が救済される。 (フォーラムメンバーに説明する市野さん) (フォーラムメンバーに説明する市野さん) (設楽ダムはすばらしい自然豊かな渓谷に立地を予定している) (設楽ダム予定地の最北端にある廃校) (設楽ダム建設阻止のためのタチギトラストの標示) (昼食後の議論) (設楽町から岡崎市に行く途中) ■300ヘクタールの里山を破壊するトヨタの走行コース (愛知県岡崎市・豊田市) 愛知県岡崎ではあのトヨタ自動車が300ヘクタール近くの規模の里山を全部壊し、自動車の走行テスト場をつくるべく、愛知県と豊田市・岡崎市の職員を総動員し、環境アセスも10社以上の環境コンサルタントが動員され、地域の自然保護団体や住民を蹴散らしながら開発に邁進している。 来年は生物多様性条約締結国会議のCOP10が名古屋で開催されるが、トヨタはCOP10が終わるまではブルドーザーを入れず、会議終了後に開発を強行するそうだ。 現場で聞いた話では、愛知県や市町村は、何とトヨタの係長的な存在であって、新聞も前代未聞の里山破壊、自然破壊などトヨタの行状についてはほとんどまともな記事を書いていないという。メディアが広告収入との関連で巨大企業を批判できないのは全日本的なことだが、何とも恥ずかしいことである! (すばらしい里山風景。これを壊し、ここにトヨタの自動車走行コースが造られる) (フォーラムメンバーに説明する織田さん) (フォーラムメンバーに説明する織田さん) (すばらしい里山風景。これを壊し、ここにトヨタの自動車走行コースが造られる) (フォーラムメンバーに説明する織田さん) ■立地規制しない巨大風力発電による周辺集落への甚大な被害 (愛知県豊橋市) 自然エネルギーの旗手であるはずの風力発電だが、残念ながら日本はデンマークなどEU諸国や米国のカリフォルニア州と異なり、集落や猛禽類の飛行との関係で十分な立地規制がなされていないため、甚大な影響がではじめている。 豊橋市東部の海岸沿いにあるM&D社の巨大風力発電装置は、周辺集落、住宅との間の最短距離ガイドラインが250mと短く、低周波振動、騒音が住民の生活や健康を脅かしている。地元で聞けば、周辺住民が超低周波振動を苦にして自殺したという。 私たちが視察している最中、大きなダンプカーが風車の足下に入ってきて、土砂を谷間に埋めていた。どうみても不法投棄としか思えない。 (中部電力の巨大風力発電装置) (風力発電装置の前で) (不法投棄箇所!?) (不法投棄箇所!?) ■産廃銀座で所沢化する豊橋市東南部地域 (愛知県豊橋市) 3日目最後に視察したのは愛知県豊橋市の東部で静岡県西部の湖西市に接する農村一帯である。この地域には、産業廃棄物の大規模な焼却施設、溶融施設、破砕施設、それに産業廃棄物の最終処分場が集中的に立地されている。 まるでかつての埼玉県所沢市の産廃銀座、「くぬぎ山」を見る感じだ。その豊橋市東部に新たにミダックという産廃業者が日量60トンクラスの焼却炉を新設するとして、すでに豊橋市に設置許可の申請をしている。 このままほっておくと、豊橋市東部と湖西市西部が接する地域は、間違いなくかつての所沢化することになるだろう。 私たちは行く先々で、現地を時間をかけて視察し、その上で現場で日夜がんばっている地域住民団体と議論し助言した。今後、この種の環境アドボカシーを全国各地で展開したいと考えている。 (ミダック焼却炉立地予定地) (ミダック焼却炉立地予定地) (ミダックの近くにある既存の産廃焼却炉) (ミダックの近くにある既存の産廃溶融炉) (産廃溶融炉を見ながら) (住民団体との議論) (住民団体との議論) |
●環境行政改革フォーラム 静岡県・愛知県 環境視察コース 2009.7.11現在
地図のオリジナル出典はグーグルマップ
田子の浦
ヘドロ問題と訴訟
明治23年、本州製紙(旧・富士製紙⇒王子製紙)が静岡県鷹岡村に進出、廃水を放流した時から現在まで連綿
と続いている。昭和45年当時、富士地区には大小約150の製紙会社があり、この廃水の中に含まれるスラッジが
海底に堆積し、歳月を経てヘドロと化した。またヘドロにはダイオキシン類、カドミウム、鉛、水銀などの重金属類
が含まれ、発酵分解した硫化水素ガスでの中毒や、魚介類による食中毒事件も発生した。
当該ヘドロ事件は昭和45年11月に静岡地裁に提訴、法廷での論争となる。その間にも工場は操業を継続し、ヘ
ドロの処理に困った県と企業は外洋投棄まで計画していた。この住民による公害訴訟も一審では全面却下され
たものの東京高裁では逆転勝訴となった。地方自治法をもとに起こされた公害訴訟で、部分的にせよ住民側が
勝訴したのは全国で初めて 参考・引用
海岸線に野積みにされているダイオキシンなどを含む汚染土砂
撮影:青山貞一、Nikon Digital Camera S10 2009.4.12
富士山静岡空港
訴訟
反対派は空港設置許可取り消し、公金支出差し止め、土地収用法に基づく事業認定取り消し、権利取得裁決
取り消し等の訴訟を起こしているが現在審理中のものを除き、いずれの訴訟も反対派の敗訴又は訴えの取り
下げなどに終わっており今のところ反対派の勝訴した訴訟はない。
トラスト共有地・立ち木トラスト
反対派は反対派の元々の地権者(本来地権者)の所有する空港予定地内の土地の一部を静岡県内のみならず
県外や外国在住者を含んだ反対派数百名に譲渡し共有としたり、山林の立ち木の一本一本を別々の反対派活
動家に譲渡するなどの行為を行い空港予定地の権利関係を複雑化し県の用地取得を妨害しようとした。静岡県
が土地収用法に基づく手続きを行った結果、空港建設に必要な土地・立ち木に関するすべての権利について県
の権利取得が認められたがトラスト共有地・立ち木トラストによる権利の細分化による事務の煩雑化のため、用
地調査や補償金の支払事務手続に十数億円の経費を要することとなった。
直接請求
2001年に反対派は静岡空港の是非を問う住民投票条例制定を求めるため、約27万人の署名を集め地方自治法
に基づく直接請求を行ったが、住民投票条例案は県議会の反対多数で否決された。
その他
2007年2月6日未明に、静岡市在住の反対派活動家が静岡県庁別館前の路上で焼身自殺した。付近には静岡
市内の廃棄物不法投棄に関する静岡市の対応と静岡空港建設に抗議する内容のビラがあり、またビラと同じ内
容が焼身自殺の直前にmixiに書き込まれていた。自殺後、反対派は追悼集会の開催、追悼VTR・DVDの発売な
どの活動を行っている。また週刊ダイヤモンドは静岡空港について、無駄な大型事業の典型例とした特集記事を
数多く掲載している。岩波書店発行の月刊誌「世界」は、鎌田慧の執筆による静岡空港に批判的な記事を掲載
している
出典:Wikipedia
茶畑、オオタカの営巣などを破壊して開発される静岡空港 出典:静岡県
設楽ダム
出典:国土交通省
設楽ダム
設楽ダム概要
総貯水容量約1億m3の設楽(したら)ダムは、愛知県東部の三河山地に発し渥美湾(三河湾東部)に注ぐ豊川
(とよがわ)の最上流域に国土交通省が建設を計画している。現計画に直接つながるのは1973年に愛知県が
地元に示した8千万m3規模の多目的ダム案であるが、2度変更された結果、総貯水容量9800万m3でその内
訳は、治水容量1900万m3、不特定容量6000万m3、新規利水容量1300万m3、堆砂容量600万m3の計画と
なっている。この数値からみて、設楽ダムの主目的は、治水でも利水でもなく、不特定容量(流水の正常な機
能維持容量)であることがわかる。この6000万m3をどのように使おうとしているのか、事業者は次のような説
明をしている。「豊川水系宇連川の大野頭首工(豊川用水の取水堰)下流で川の水がなくなる断流が生じてい
るので毎秒1.3 m3の維持流量を確保する、また豊川の中流部にある牟呂松原頭首工下流の河川流量が少な
く、現状の毎秒2m3より5m3に維持流量を増やすことが必要である。主としてこの二か所について、流水の正常
な流量を維持するために、ダムで水を貯める必要がある。」こうして、川に水を流すために巨大ダムを造って水を
貯める(流水を溜まり水にする)というのである。堆砂容量を除いた有効貯水容量9200万m3の65%、さらに洪水
調節容量を除いた利水容量7300万m3の実に85%に当たる6000万m3が、「流水の正常な機能維持」のための
容量という前代未聞のダム計画である。
洪水調節容量1900万m3についてみれば、最上流部の限られた流域(豊川流域面積の9%)をカバーする設楽
ダムによって豊川下流の洪水を抑制するのは困難であることは誰にもわかる。豊川下流域には、中世以来の
不連続堤・遊水地が現存し、大きな洪水の際には遊水機能を発揮している。上流域森林の適切な保全管理、
水田の洪水調節機能の活用、堤防の強化などに加えて低地の開発を規制するなど、流域全体で総合的に水害
の抑制を図ることが本来の治水のあり方であり、ダムに頼ろうとするのはかえって危険であることを多くの例が示
している。地震によるダムがらみの複合災害も含めて、流域住民の安全を第一に考えれば、ダムという選択肢は
採用しないのが正常な判断というものだろう。
設楽ダムは、治水上も、利水上も不要であり、典型的な無駄な事業である。そればかりか、以下にみるように
環境への影響は途方もなく広く深いもので、流域住民が将来にわたって健康で豊かな生活を続けていく前提と
なる自然環境の健全さを破壊する有害極まりない事業であると言える。
出典:http://no-dam.net/shitaradam.html
トヨタテストコース
このような美しい里山の自然を破壊して開発される? トヨタテストコース
■トヨタによる21世紀の巨大自然破壊(愛知県豊田市・岡崎市)
織田重巳:愛知県はまたもや世界をペテンにかけようとしている
織田重己:愛知県とトヨタが破壊する希有な里山(写真)!?
織田重己:トヨタによる21世紀の超巨大環境破壊!?
トヨタテストコース
愛知県豊田市の下山地区と同県岡崎市の額田地区にまたがる約660ヘクタールの山林を愛知県企業庁が買収・造成し、
トヨタに売却。トヨタは、このうちの280ヘクタールにテストコースと研究開発拠点を建設する。県の希少生物調査で絶滅
危惧(きぐ)種の猛禽類(もうきんるい)・サシバの生息が確認されるなどしたため、トヨタは開発面積を当初の410ヘクター
ルから約3割減らした。最近になって、予定地と周辺で新たに27種の希少な鳥類の飛来が確認された。
( 2008-12-11 朝日新聞 夕刊 1総合 )
ミダック豊橋事業所
愛知県豊橋市と静岡県湖西市の境界地域は、産業廃棄物の焼却、溶融施設が集中しかつての埼玉県所沢市に類する
地域となりつつある。現地視察では新たに設置許可申請がでている焼却施設が立地される地域及びその周辺地域を視
察し、地域住民等と意見交流する。
民と