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愛知万博環境影響評価会提出レジメ 万博アセスの問題点 原科幸彦 東京工大大学院教授 |
1.アセス法の先行適用
ようやく国際的な水準の環境アセスメント制度に(sustainable development)
アセスメントの本質は環境影響を配慮した意思決定過程の透明化(accountability)
改善点: アセス結果により計画を変更、 複数案の比較検討を要請
問題点: 参加の規定は不十分
愛知万博のアセス(1998〜): アセス法の試行を目指したはずだが?
事業者の自主的な取組みで効果的なアセスになるはず
評価できる点: 実施計画書段階では、アセス法には無い手続を追加
説明会や意見交換会を開催、
実施計画書の確定版を公表 ・・ しかし、その直後に準備書を公表
問題点: 住民の意見に十分は答えていない
実施計画書段階で比較検討する複数案を提示せず
特に分散会場案などの住民の提案は無視
2.BIE登録までの展開
通産省要領にない事態の発生:
オオタカの営巣発見がきっかけで評価書では、本格的な複数案の比較
単一会場案(T案)と、分散会場案(U案)
評価書の審査の結果、U案でも環境負荷は軽減されないと判断
しかし、時間制約という理由でアセス再実施をせず(00.1.13)、
修正評価書作成へ
時間制約という説明は事実でなかったことが判明(00.1.14、新聞報道)
愛知万博検討会議での検討(00.5.28(第1回)〜00.12.21(第13回))
分散会場案(U案)の大幅な修正へ ・・ 青少年公園を主会場へ
3.最近の状況 −修正評価書作成の段階−
国際水準のアセスを要求(01.12.12.環境影響評価会、原科)
2回のパブリックコンサルテーションの実施(方法書段階と準備諸段階)
万博検討会議のような参加の取り組みが必要、 スコーピングミーティング
修正評価書の段階で「実質的に必要なアセスを実施」という方針(01.12.27)
方法書段階に相当するものは簡略化 ・・ 市町長意見、知事意見は求めない
実施計画書は確定させず(02.3.4、評価会)、
修正評価書案を公表(02.3.12)
審査会で十分な審査を!
住民意見を受け: 市町長意見、知事意見、環境大臣意見、 経産省の評価会
比較案の再検討が不可欠、 弾力的に対応できるはず(実施計画書は確定せず)
4.代替案の比較検討を適切に
原案とその代替案 ・・ 複数案の比較検討
「方法書段階での」複数案の提示が必要(スコーピング)
アセス法の欠陥 ・・ 方法書への複数案の記載は義務付けられてない
複数案の種類
原案、 さらに環境配慮した「実行可能な」代替案(複数)、 ノーアクション
修正評価書作成のための実施計画書の場合:
原案(基本計画、基準日入場者数は15万人)とT案、U案の比較は無意味
T案、U案は、いずれも実施しない案 ・・ 02.3.4.の評価会でも確認
実行可能な案は ・・ BIE登録時の案(基準日12.5万人の入場者数)、
基準日10万人案も実行可能*
* 実行可能な理由:
基準日15万人を10万人に減らしても総入場者数は、90万人ほどしか減らな
い。1500万人でも1410万人でも万博としては十分な入場者数。
入場料収入は6%ほど減少(23.4億円)するが、施設の収用人数は1/3減り、
建設費の削減効果は大きい。33%は削減されないが、10〜20%は削減するのでは。
仮に10%の削減でも、135億円の建設費削減。100億円以上の総費用節約に。
5.意味ある参加を −計画案へのフィードバック−
意思決定過程の透明化のために参加は不可欠 ・・ 参加の手続が重要
参加の5レベル:
1)情報提供(informing) 2)意見聴取(hearing) 3)形だけの応答(reply only)
4)意味ある応答(meaningful reply) 5)パートナーシップ(partnership)
意見のフィードバックが十分できる参加が必要だが、この手続になってない
実施計画書に対する意見書への応答はホームページに(レベル3の参加)
実施計画書は準備書を公表してから、準備書(修正評価書案)作成作業が必要なはず
適切なコンサルテーションがなされたとは言えない(アセスはレベル4の参加)
6.今後の展開
既に、修正評価書案の審査段階に入っている
準備書(修正評価書案)の審査で適切な対応を(通常、数ヶ月は審査期間が必要)
市町長意見は、住民意見の締め切り(4.26)の後に出るはず、
知事意見のための県アセス審査会は、市町長意見、住民意見を受けてから出る、
環境大臣意見は、これらを受けてから出さねばならない。
経済産業省の評価会は、環境大臣意見を受けてから本格的な検討に入るはず。
参加の不足を透明性の確保でカバー
会議の公開 ・・ 傍聴だけでなく、議事録は発言者名を記して公表するべき
数回は会議を開催し、十分な議論を
現在は、分科会を各1回(5.10)、評価会も1回(5.20)しか予定されていない
不充分な議論のまま進んではならない(02.3.4.の評価会)
○参考: 2001.12.13発信の、協会担当者へのメイルの内容(経産省等の関係者へも送付)
(具体的な方法1: スコーピング)
○○さんのご理解のように、私の主張は、スコーピング段階と評価書段階の2回のコンサルテーションが必要だということです。つまり、アセス法の手続と同様、方法書、準備書、評価書の3段階を踏むことです。これが世界の標準的な方法です。しかし、今回は時間制約がきついので、これを1年間で終える。
具体的には、方法書段階に相当するものは、以下のように来週から説明会の機会を使い住民意見を聞き、議論も行います。方法書の案に相当するものはA4版1−2枚程度でOK。中身は、比較検討する複数案と予測・評価項目の案で十分です。
このプロセスを経た上で、1月の末くらいには方法書を示す。これは、10〜20頁ほどのもので良いのです。大切なのは住民の意見をしっかりと聞いてこれを受け止めたものを作ることです。この方法書に対して、改めて意見を求めますが、この期間はアセス法よりも短縮して、1ヶ月で良いと思います。なぜなら、事前に説明会の機会を用いて住民意見を聞くプロセスを経ているからです。
*このプロセスの進んだ点*
このように早め早めに、積極的に住民意見を聞いていけば、アセス法よりも期間を短縮することが可能だと思います。大切なのは住民の意見をよく聞いて、きちんと答えて行くことです。この方法書への意見収集が1回目のコンサルテーションですが、今回は方法書を作る前から住民意見を聞きますから、アセス法の手続よりも丁寧なものになります。これは法の規定からすれば重複するように見えますが、本来は、このような形で行うのが世界水準のスコーピングです。
*比較検討する代替案を絞り込む*
もう1つ大切なのは、準備書段階で比較検討する代替案の範囲を絞り込むことです。先進国のスコーピングでは、これが最も重要な点です。アセスとは本来、環境配慮のための複数の代替案を比較検討することによって、どの案が最も環境配慮がされているかを示すものです。これにより事業者は環境配慮に関する説明責任を果たします。従って、アセス法では規定されていませんが、効果的なアセスを行うためには、方法書段階で、比較検討するべき代替案を絞り込むことはきわめて重要です。これが、スコーピングの核心と言えましょう。
当面考えられる代替案は、少なくとも次の2つです。
協会の原案: 協会が提案した基本計画(基準日入場者数、15万人)
代替案1: 昨年BIEに登録した時の案(基準日入場者数、12.5万人)
これに、できれば次も加える。
代替案2: 環境配慮をさらに進めた案の一つ(基準日入場者数、10万人)
これは、アセスの結果によっては活動内容を変えるという意志表示です。これが極めて重要です。結果が決まっている、いわゆるアワセメントではないことを、このような形で示します。
(具体的な方法2: 準備書から評価書への段階(修正評価書案〜修正評価書))
その後は、住民意見を整理して方法書の確定版を作ります。この時、環境影響評価会でその内容を検討します。これが、3月の初めです。検討が終われば即時、方法書の確定版を公表します。
準備書に相当するのが修正評価書のドラフトです。これを修正評価書案と呼びましょう。修正評価書案の作成は時間が少しかかりますが、今回は評価書段階での情報や、その後の調査結果から得られる情報が活用できますから、方法書が確定して2ヶ月もあれば,準備書(ここでは修正評価書案)を公表できると思います。スコーピング段階で比較評価すべき代替案と予測・評価項目をしっかり絞り込んでおけば、修正評価書案はコンパクトなものになります。恐らく、100頁もあれば良いでしょう。5月の連休明けには修正評価書案が公表できます。そして、アセス法と同じく1ヶ月半の意見書受付期間を設けます。
6月末には意見書が集まりますから、これを集計して対応方策を整理し、7月中頃に環境影響評価会で検討します。2回ほどで終えれば、8月から修正評価書の確定版の作成に入れます。今度は1‐2ヶ月の作業で終わるでしょう。これを9月頃に環境影響評価会で検討して、10月の初めには,修正評価書の確定版が公表できます。
以上は、かなり順調に行った場合を想定していますので、修正評価書案や修正評価書の作成にもう1〜2ヶ月かかれば、11月か12月に修正評価書の確定版の公表となります。
いずれにしても、私の判断では1年以内にアセスプロセスを終了することが可能です。以上のことをご理解頂ければ、「青少年公園地区については、実質的にアセスを再実施する」と一刻も早く宣言する。
(大切なのは地域の合意を得ること、アセスはそのためのプロセス)
地域住民は何も分厚いアセス文書を求めているのではありません。彼らの声を聞いてもらいたい。彼らの心配に誠意を持って答えてもらいたいのです。ですから、最初が肝腎。今朝の新聞報道は非常にまずいと私は思います。しかし、逆に、私が言いましたように、協会が早急に、アセスに対し積極的の取組むと宣言すれば、住民の見方は大きく変わるでしょう。
私は、国際協力銀行のアセスガイドラインづくりや、長野県の廃棄物処理施設の合意形成、屋久島での国連大学・鹿児島大学等とのゼロエミッションプロジェクトや、環境アセスメント学会の設立などで、今、超多忙です。しかし、協会が、私が上に申したことに本気で取組んで頂けるなら、出来るだけの協力をすることも吝かではありません。
世界の人が見て恥ずかしくないアセスプロセスとして頂きたい。