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環境万博といえるアセスを
朝日新聞 2000.2.8朝刊 論壇
原科幸彦 


 2005年愛知万博は環境万博というふれこみだが、国内外から多くの疑念が出されている。とりわけ、国際博を開く博覧会国際事務局(BIE)でさえ、現在の計画を危ぶんでいることが最近明らかになった。 政府は誘致に当たり環境万博にふさわしい適切なアセスを行うことを定め、アセス法を先取りすることとなった。当初はモデルとなるアセスを目指して進められてきたが、ここに来てだんだん怪しくなった。

 筆者はアセスの仕組み作りの段階から専門家として関与しており、現在は通産省の環境影響評価会の委員を務めている。評価会のもとに検討会が設けられ、その一員として通産大臣意見作成のための助言を行った。

 アセス法の方法書に相当する手続きを経て、1999年2月に準備書が公表された。その後、会場候補地でオオタカの営巣が発見され、9月に当初計画(第一案)の大幅変更が発表された。その直後の10月に評価書が公表されたが、これはあまりにも短期間での対応であった。この計画変更(第二案)は、会場を青少年公園等にも拡大した大幅なものなので、会場を拡大した部分は当然、調査・予測・評価が不十分である。

 しかし、これを通産省は受け取り、登録申請期限が間近だということで不十分な評価書だがやむをえず審査を行い、1月13日に検討会の報告書をまとめた。ところが翌14日にとんでもないことが新聞報道された。
登録申請期限まで、まだ2年もあり、BIEは環境を十分配慮した計画とするよう登録申請は遅らせろと助言していたというのである。

 このことは、検討会のメンバーには何ら伝えられていなかった。時間制約がこのように異なっていれば検討会での議論は大きく変わっていたはずだ。通産省はなぜ、これを検討会に伝えなかったのか。
評価書では、上の第一案と第二案が比較検討された。短期間ではあったが集中的な審査の結果、最終的な判断は、第二案では改善効果は明らかでないということであった。しかし、第二案の、海上の森地区の環境負荷を減らすという方向は正しく、この方向をさらに採用すれば、環境影響を軽減しうる。従って、第二案の方向での計画の変更を求める内容の報告がまとめられた このように、明らかな改善効果がないと判断されたのだから、本来は通産省の要領にもとづきアセスの再手続きをするべきである。座長も、明らかな改善効果が示されていないと委員会で判断されれば、委員会として再手続きを要求することになると明言して来た。 しかし、登録申請は5月にせねばならぬという通産省の強い意向があったため、評価書の内容は不十分であると確認したものの、アセスの再手続きを求めるという意見は書き込めなかった。

 登録申請の期限はBIEのルールに従えば2002年までに行えば良いことは最終の検討会である1月13日に判明したが、通産省は、5月の登録申請はBIEの要請だとした。従って、我々委員は再手続きをしないのも止むをえないことと考えたわけである。この後、担当者は要請ではなくBIEの期待だと言い換えたが、BIEの要請があったという前提のもとでの結論のままとなった。 果たして、このような不十分なアセスで良いだろうか。時間の余裕があることが判明した以上、通産省自らが作ったアセス手続きのルールに従うべきである。アセスの本質はコミュニケーションである。手続きを正しく行うことが世界の理解を得る最善の道である。

 このプロセスは、世界の環境保護団体やアセスの専門家が注視している。WWF等の国際的な有力NGOがBIEに自然環境を守るよう要請しているが、このことの意味は極めて大きい。

 環境負荷を減らすためには、2500万人と想定している入場者数にこだわる必要はない。計画の内容次第で、1500万人でも採算は取れる。規模を縮小して既存施設を極力活用し、土木・建築の工事量を極力減らすような計画にすれば施設建設費用は削減でき、むしろ採算性は上がる。 海上の森は会場の一部とするが、自然保全型の計画として入場者数は1日数千人程度に制限する。人工的構造物は青少年公園地区に集中させ入場者の大半はここで受け入れる。期間中の総入場者数を上のように下方修正すれば、青少年公園地区での受け入れは十分可能である。

 海上の森は博覧会後、万博を記念する自然公園とするならば、世界も理解できるし、国民も納得する。国際的な理解を得られない万博を強行しても、我が国の利益にはならない。むしろ、環境配慮をしない国として世界中の非難を浴びるであろう。

原科幸彦・東京工業大学教授・環境計画

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