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中央環境審議会地球環境部会
目標達成シナリオ小委員会御中
2001年8月3日

原発稼働率設定に関するパブリックコメント

青山 貞一 環境総合研究所 所長
法政大学工学部機械工学科
早稲田大学教育学部
中央大学理工学部土木工学科
東京工大大学院総合理工学研究科
非常勤講師
池田こみち 環境総合研究所 副所長
鷹取 敦
環境総合研究所 主任研究員

 中央環境審議会の「目標達成シナリオ検討小委員会」で設定された原発稼働率について、地球温暖化対策の観点から安全性を省みない異常に高い稼働率を設定することに異議を申し立てます。


■世界各国の原発稼働率について■

 世界各国では炉型等により原発の稼働率は異なっている。
 さらに各国の定期検査規定や炉型により稼働率に違いがある。2000年の平均稼働率で90%を越える国は,

ベルギー (90.7%、 1基、 6019MW)
フィンランド (91.6%、 4基、 2760MW)
スペイン (91.4%、 9基、 7799MW)
オランダ (97.1%、 1基、 481MW)

の4カ国である。他方85%を越える国は

ドイツ

(86.8%、 19基、 22224MW)
ハンガリー (86.9%、 4基、 1854MW)
韓国 (87.7%、 16基、 13924MW)
スイス (88.6%、 5基、 3328MW)
台湾 (86.5%、 6基、 5144MW)
米国 (85.0%、 103基、 103795MW)
中国 (85.5%、 2基、 1968MW)

の7カ国である。

 上記のうち、日本に匹敵する原発の巨大規模(51基、45082MW)を有する国は、ドイツと米国である。したがって日本における将来稼働率を推定する上で参考にすべきはドイツ及び米国であると思える。

 その理由は原発が多数あることによる老朽化の問題及びプラントのばらつきが存在するとことにある。寿命から稼働率では、比較的小規模であれば高い稼働率が得られる可能性もある。しかし老朽化していたりプラント数が多い場合そのばらつきの影響もあり高い稼働率は困難であることも分かっている。


■我が国の原発稼働率について■

 我が国の原発の年間平均稼働率を以下に示す。以下では1995年以降、連続運転期間の延長及び定期検査期間の短縮により80%を越える稼働率となっているが,そのこと自体、安全性などの観点から疑義があるものと思われる。

1993  75.4%
1994  76.6%
1995  80.2%
1996  80.8%
1997  81.3%
1998  84.2% 
1999  80.1%
2000  81.7%


■温暖化対策としての原発稼働率設定の課題■

 我が国における現状の規制体系,安全性の確保を前提とすると「実績として80%」を期待することが限度であり、それを越える稼働率はある年度ではありえても、数年単位では考えられない。「実績として80%」を越える稼働率を達成するとすれば、それは現行規制および技術の変更が必要となるだろう。  

        総合エネルギー部会 中央環境審議会
基準ケース 77〜83% 80%
計画ケース 77〜83% 84.2%
ポテンシャル 85% 90%

 それでも我が国の原子炉の種類、老朽化の現状を考慮した場合、85%を越えることはありえないだろう。さらに、実績として平均稼働率が高くなることとは別に、地球温暖化の施策として一定の稼働率が決定されると、実態としてはそれが個々の原子炉に「国策」として達成目標になりかねないものとなる。

 その場合、多少のトラブルや異常でも原子炉を緊急停止させないとか、定期検査の一層の簡略化、連続運転の一層の長期化など、さまざまな安全性に影響を及ぼしうる現実面の対応が想定される。

 茨城県東海村にあるJCOの臨界事故の原因の一つが、経営効率化の改善圧力が作業現場に掛かり、時間短縮や人員削減、さらには作業手順の簡略化に結びついたことにあるということにあるとすれば、原発の稼働率向上にはもっとも慎重になるべきであろう。ましてや、現時点では原子力安全規制に関して関与できない中央環境審議会が、原発の稼働率を異常に高く設定することにより温室効果ガス削減率を高めようとすることは厳に慎むべきことである。


■本パブリックコメントの結論■

 以上を総合すると、原発稼働率は、せいぜい以下に示すものとすべきであり,「90%」という現実、実態や安全性を省みない非常識な数字は削除すべきである。またそれに相応する需要は省エネか自然エネルギーとすべきである。

・計画ケース  80%
・ポテンシャル 83%

以上


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