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2001/6/22

環境行政に通産のエゴ
読売新聞 1997/2/7 朝刊「論点」

青山 貞一
環境総合研究所所長
環境行政改革フォーラム代表幹事


 国の環境アセスメント法制化の実質的な審議を行ってきた中央環境審議会の企画政策部会は、この十日に最終審議を終え、中旬をめどに首相に答申を出す。その後、環境庁が法案を国会に提出する予定だ。

 わが国は環境アセスの制度化に関し、過去、幾度となく霞ヶ関の開発諸省庁や経済団体からの圧力に屈し、主要先進国で唯一法律を持たないアセス後進国の烙印を押されるまでになった。

 その苦い経験から、審議会は森島部会長を中心に開発省庁の個別要求を認めない方針を確認してきた。そのなかで最後まで法制化に真っ向から反対してきているのが通産省と電気事業者である。

 反対の理由は、国の経済基盤をなす電力の安定供給を行う必要があること、省議決定によって既に事業者が時間と経費をかけてアセスを行っており、法律によるアセスは不要である−−−と言うものだ。いたずらに事業の遅延を招くような新規手続きは不要、とさえ主張した。

 このような通産省の言い分は、過去20年ほとんど変わっていない。エネルギーの安定供給と言う大義をふれりざせば、この環境重視、行革優先の時代に省益や特定産業のエゴが通用すると思うこと自体、すでに時代錯誤である。

 通産省と電気事業者との関係は大蔵省と銀行との関係と同じ護送船団方式である。このようなエゴを認めれば、建設、運輸など他の開発諸官庁も黙っていない。こぞって省益を全面に立て例外を要求することになるだろう。

 ところで、今年は「気候変動に関する国連枠組み条約の第3回締結国会議」(COP3)が京都で開催される。COP3には世界各国が一堂に会し、地球温暖化防止のために西暦2000年以降の各国のCO2の削減目標が取り決められることになっている。通産省はここでもアセス法同様、エゴを貫いている。

 通産省は今後、電気需要が年率3%伸びるとする電気事業者の言い分を代弁してエネルギー長期需給見通しや電源開発基本計画など国のエネルギー計画の立案過程右肩上がりの需要を主張し、結果的にCO2排出量の削減を一切黙殺しているのである。

 わが国では、オイルショック以降、産業部門で徹底した省エネが行われてきたが、最近は家電製品の需要拡大を背景に、民生部門の消費がじわじわ増加している。

しかし、わが国の地球温暖化防止行動計画の目標は1992年にブラジルで開催された地球サミットでの国際公約であり、守らなければならない。2000年のCO2排出水準を1990年の水準に安定化させるという目標を守るためには、野放図なエネルギー消費の増加、なかんずく電気需要を抑制することが急務である。

 通産省は率先して省エネを推進するのが当然であり、需要ありきの政策に固執することは本末転倒である。だが、需要抑制政策を進めるどころか、電気事業者連合会の言いなりの供給計画を押し進めているのである。実際、昨年秋に開催された第133回の電源開発調整審議会では、約400万キロワットと言う世界でも有数規模の上越火力の立地が、CO2排出問題についてまったく議論される事なく承認された。さらに、今年3月には300万キロワットの石炭火
力発電所もCO2問題に触れることなく承認されようとしている。

 わが国では電気事業が実質的に9電力会社によって独占されており、国民は世界一高い電気料金を負担させられている。電気事業者は、その寡占体制を堅持するために不必要とも思える過剰な大型設備投資を続けているのである。

 これでは到底、国際公約など守れるはずはない。CO2排出問題でもアセス法同様に、日本が公然と公約を破っている事実が分かれば、米国はじめ他の先進国もこぞって国家エゴをだすだろう。そうなればCOP3は主催国としてのメンツはまるつぶれとなるだろうし、実際、温暖化は避けられなくなる。

 かつて通産省は環境庁設置に猛烈に反発し「もうひとつの環境庁」を省の内部につくっていた。現在の環境立地局がそれである。通産省は今でも公害問題から地球環境問題まで、環境庁の政策、施策にことごとく反発している。アセス法のみでなく、先進国では規制が当たり前となっている有害化学物質の規制について審議や省庁間調整の場でも、時代錯誤と思える主張を繰り返しているのである。

 このように通産行政は、環境行政の分野で「二重行政」を推進し行革に逆行するだけでなく、アセス法の制定や未規制有害化学物質の規制に反対することで環境優先の国づくりにも逆行している。

 世は消費者、納税者、総じて国民の権利が巨大企業と霞ヶ関の官僚機構の癒着から保護されるべき時代に入っている。通産省の常識が世間の非常識となっていることを自覚すべきだ。

 日本が世界の孤児とならないためにも、またCOP3を成功させるためにも、国民が通産行政の改革にもっと厳しい目を向ける必要があると考える。

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 環境行政改革フォーラム代表幹
事、東京工大講師、著書に「台所
からの地球環境」等多数、50歳


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